賃貸住宅市場の光と影 ~なぜアパートローンは収益性で評価しなくてはならないか~

 総務省統計局が5年ごとに実施している住宅土地統計調査によると、平成25年10月1日時点で、日本には約820万戸の空家が存在します。このうち半分以上の約430万戸が賃貸用の住宅で、さらにその90%近い約370万戸を共同住宅、つまり賃貸アパートや賃貸マンションが占めています。

 このように賃貸用住宅の空家が増加している一方で、国土交通省の住宅着工統計によると、2014年度には約36万戸の貸家が着工しています。これらの中には、NHKのクローズアップ現代[注]で取り上げられたように、収益物件として成立しないものも少なからず含まれています。

 本資料[注]では、最新のデータを用いて賃貸住宅市場の状況を解説するとともに、アパートローンの担保評価を行う上で注意すべきポイントについて解説します。

賃貸住宅市場の光

 いざなみ景気時に増加した首都圏の貸家着工数は、サブプライム問題、リーマンショックを経て大きく減少しました。回復のきっかけになったのは、東日本大震災です。その後、賃貸住宅の着工数の増加傾向は継続しています。
 これは、

  1. 世帯数、特に単身者の世帯数が増加傾向にある
  2. 不動産投資ブームに伴い賃貸住宅に投資する個人投資家が増加した
  3. 相続税改正に伴う相続税対策での賃貸住宅建築が増加
  4. 消費税増税によって一般住宅着工数が減少したためハウスメーカーの軸足が移った
  5. アベノミクスに伴う景気回復

等の複合要因によるものです。

賃貸住宅市場の影

 一方で、

  1. 平成25年10月時点で全国には約370万戸の賃貸住宅の空室が存在
  2. 2020年以降首都圏の世帯数は減少傾向となる
  3. 高齢化の進行により2040年までには約52万戸の賃貸住宅の空き室が市場に放出される
  4. 賃料や価格の下落に伴い人口の中心回帰が進行している

等、今後の賃貸住宅市場は予断を許さない状況です。

何に着目して評価すべきか

 これまでデータがなかったことも要因ですが、賃貸住宅の収益評価において空室率はあまり重要視されてきませんでいた。しかしながら、今後予想される需要の変動を考慮すると、空室率にフォーカスを当てるべきであることは明らかです。

 我々がアットホーム株式会社の賃貸住宅データをもとに推計した首都圏の市区町村別空室率TVI(タス空室インデックス)[注]からは、特にアパート系の空室率が全域で高い水準となっていることがわかります。例えばNHKのクローズアップ現代「アパート建築が止まらない~人口減少社会でなぜ~」で取り上げられた埼玉県羽生市は、築10年未満のアパートであっても空室率が30%を超えています。

 このような地域的なリスクを評価に取り込むことが今後は重要になってきます。

株式会社タス[注] 主任研究員 藤井和之

注:株式会社タスは、インターネットによる各種不動産評価および各種地価マップの情報提供を行う弊社の関連会社です。
注:本資料はFIT2015にて藤井氏が講演された内容の転載です。
注:NHKクローズアップ現代「アパート建築が止まらない~人口減少社会でなぜ~(2015年5月11日放送)
注:タスが開発した賃貸住宅の空室の指標であり、空室の建物戸数÷募集建物の総戸数で算出される。

レポートの続きはこちら賃貸住宅市場の光と影 ~なぜアパートローンは収益性で評価しなくてはならないか~