担保の適格性と不適格性

担保の適格性と不適格性

今回は、担保適格性と不適格性を中心に解説します。

※ 本コラムは「JA金融法務 No.542/ 2016年2月号」に寄稿したものを転記したものです。
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(1)三つの原則

担保適格性には、「安全性」「市場性(流動性)」「確実性」の三つの原則があります。

① 安全性の原則
担保不動産は、貸出期間中にその価値が減少するものであっては、債権が回収できなくなるおそれが生じます。そのため、担保不動産は、価格が安定して低下しないものが望ましいと考えられます。

安全性の内容として、「物的安全性」と「私的権利の安全性」が挙げられます。
「物的安全性」とは、土地や建物が現実に存在し、かつ合法的な状態にあるということです。

東日本大震災では、地震による地盤沈下で土地が水没してしまうケースがありました。また、建物が倒壊していても登記は残っているというケースもあります。このような場合、実際に現地で確認すればトラブルを未然に防ぐことができます。また、現実に存在しているものの公法上の規制に反するものや、権利移転に許可が必要な不動産は、担保不適格といえるでしょう。

一方、不動産には、所有権や賃借権など多数の私法上の権利が成立し、これらの権利の内容により担保権そのものが否定されたり、換価処分が困難になったりします。担保不動産にはこれら私法上の権利にも安全性が求められ、これを「私的権利の安全性」といいます。

② 市場性(流動性)の原則
担保不動産は、できるだけ換価処分が容易なものが望ましいとされており、筆者は、この市場性が最も重要であると考えます。安全性や確実性についても、広い意味で市場性のなかに包括されるものでしょう。したがって、市場性がなく処分が困難と考えられる物件は、担保不適格といえます。

市場性の内容としては、郊外型ショッピングモールの開業により衰退化してしまった駅前商店街など地域の状況によるもの、無道路地や崖地など物件の個別的な状況によるもの、神社、病院など不動産の用途によるものが挙げられます。

また、建築資材に凝つた豪奢な建物など、建築コストが極端に高い建物がまれにあります。これらは担保不適格とは言い切れませんが、換価処分時に建築コストに見合つた価格で売れることはまずありませんので、このような物件を担保に取る場合、担保評価は保守的に考えたほうがよいでしょう。

さらに、不良債権化した担保不動産は往々にしてなかなか売れないことが多く、時間の経過とともに物件の価値が毀損していきます。特に、旅館・ホテルなどの事業用不動産の場合は毀損が大きくなることが多く、このような物件の市場性については十分な検討が必要です。

③ 確実性の原則
一般的に融資期間は長期にわたるため、担保不動産は、長期にわたって価格や収益・権利が変動しない確実なものであることが望まれます。

例えば、老朽化した木造アパートや、大規模工場の閉鎖により入居者が激減する可能性のある賃貸マンションなど、物件そのものだけでなく地域の状況などについても注意しておく必要があります。

④ その他
前述した三つの原則以外に、「管理の容易性」という原則も必要です。一般的に金融機関では、その営業区域内に担保不動産があることが原則です。担保不動産が営業区域外や遠隔地にあると、担保建物が取り壊されるなどというような担保価値を減少させる行為が行われたとしても、目が届かないために、そのまま放置される危険性があるからです。

また、反社会的勢力が関連する物件、公序良俗に反する用途の物件などは、コンプライアンス要件に違反するといえるでしょう。コンプライアンス要件は債務者属性の間題ではありますが、これに違反する物件は担保不適格といえるでしょう。

(2)融資の際の考え方

現実的には担保適格性にやや難のある物件を担保に取らざるを得ないというケースも多いでしょう。むしろ、ややリスクのある物件にも積極的に融資していくという姿勢も考えられます。また、前述の内容は、いわば伝統的な担保適格性に関する考え方であり、今後は考え方が変化する部分もあるかもしれません。

つぎに、二つの例を採りあげます。

例1:底地(借地権が付いた土地の所有権)

処分の困難性等から、市場性に劣り、担保不適格と考えられていますが、別の見方をすると、長期にわたって安定的に地代収入が得られるという見方もあり、底地がポートフォリオに組み入れられているJ-REITの銘柄もあります。
また、事業用定期借地権が設定されていると、一般的に地代は比較的高額になるので、地主にとっては有利な土地の運用方法ともいえます。

例2:郊外型ショッピングモールの影響で衰退する駅前商店街

商業収益が落ち、いわゆるシャッター商店街になってしまう可能性もあり、厳しい見方をしてしまうのもやむを得ません。
しかし、一方で、駅前という立地に着目すると、土地価格が相応の水準であればマンションを建設しても採算が取れるわけで、駅近のマンション用地として注目度は上がります。そのようなケースであれば、むしろ積極的に融資をするのではないでしょうか。

実務における適格性のチェック

(1)チェックする点

さて、では具体的に実務においてどのような点をチェックすればよいのか、主なものをみていきましょう。

① 膳本(全部事項証明)や公図
買戻特約の(仮)登記の有無、所有権移転請求権の仮登記の有無、借地権・地上権・地役権等の権利設定の有無、土地や建物の所有権者と融資申込人が同一か、士地の地目が「田」「畑」ではないか、第三者の土地の介在の有無、などをチェツクします。
② 法令制限等
接道義務、建ぺい率・容積率など建築基準法上の制限を満たしているか、市街化調整区域に存する場合に将来第三者による再建築が可能かどうか、用途地域や開発許可など都市計画法上の制限を満たしているか、自治体の条例等の各種法令制限を満たしているか、などをチェックします。
③ 現地調査
未登記建物や未登記増築の有無、担保提供以外の登記建物の有無、第三者の利用の有無、テナントの入居状況、反社会的勢力、風俗店、宗教団体等の存在の有無、墓地、汚水処理場等嫌悪施設の存在の有無、などをチェックします。

(2)リスク要因の認識

ここまで、聞き慣れない用語なども出てきたかもしれませんが、これらの法令制限等や現地調査事項については、本連載のなかで今後詳しく解説していきますので、今は「不動産というのは色々なリスク要因があるのだな」という程度に認識しておいていただければ十分です。

適格性のチェックは事前にすべてできるわけではなく、また適格性にやや難があったとしても担保として取得するかどうかは別の間題です。むしろ、すべてにおいてピカビカの物件というのは少ないかもしれません。適格性や担保取得の可否は各々の金融機関でルールがあると思いますので、実務ではそれに沿うとして、一方で「この物件はどのようなリスクが潜んでいるのか」というリスク感覚を養うことが大切です。



  1. 知っておくべき不動産担保の基礎知識
  2. 担保の適格性と不適格性 <- 本記事
  3. 対象不動産の確定と法定地上権
  4. 必要資料の収集と各種調査

レポートの続きはこちら1からわかる 不動産担保の実務②
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