年代物の機械設備はどうやって評価するのか

 今回は、港湾倉庫業のM&Aにおける、年代物の機械設備の評価についてご紹介します。

 事業再編の際に連結子会社化した社歴の長い会社の株式取得価額を時価配分するため、取得原価配分(PPA:Purchase Price Allocation)を行うための機械設備評価について依頼を頂きました。

取得原価配分(PPA)とは?

企業結合において、取得原価(買収の対価)を被取得企業の識別可能な資産・負債に対して、時価を基礎として配分する手法。有形資産・無形資産を公正価値にて評価し、最後に残った部分を「のれん」に計上するM&Aには重要な手続き。

対象概要

 対象不動産は外洋型の大型貨物船が直接接岸可能なバースを備えた港湾地区の広大な敷地であり、積込から保管、搬出の全ての工程が配置され、資産台帳に記載された機械設備の点数は1,000点を超えていました。

 また、主要部分は、アンローダ・ホッパースケール・サイロなどの搬入工程と、サイロ・ホッパースケール・包装設備・シップローダ・積込設備などの搬出工程に分けられ、それぞれの工程上で多種類の貨物が扱われており、大型機械設備はベルトコンベアーなどで有機的に結合されています。

評価要点

 設置後50~60年経過したクレーン設備は、機能を維持するための十分な追加投資と日常メンテナンスが行き届いており、年代物ですが現在なお期待通りの性能を発揮し続けていました。そのため当該クレーン設備の新規再調達コストをいかに求めるかが評価の重要な論点となりました。

年代物の機械設備の耐用年数

 一般的にクレーン設備の躯体(鉄骨材)は、設計上120年もつと言われています。実際に日本国内には設置後80年を超えるクレーン設備も散見されます。また、クレーン設備の基本機能は極めてシンプル、かつ完成された技術であるため、年代物だからといって技術革新による陳腐化が耐用年数に影響することは少なく、港湾部という消耗の激しい稼働環境において、部品交換による機能回復や、日常メンテナンスによる機能維持がどの程度行われているかが、クレーン設備としての耐用年数に大きな影響を与えます。

 同社のクレーン設備も、軸受やケーブル、コンベアの摩耗がみられ、輸送管や垂直に伸縮するモータなどは消耗品としての扱いであり、接触器の溶着劣化にも気を配らなければならないものでしたが、設置後半世紀経過しているにもかかわらず十分使用可能な状態にあり、操縦席(操縦席は高さ40メートル超の場所にあります)に座っても全く古さを感じさせないものでした。

 そのため今回は、これまで負担したメンテナンスコストの総和と、将来において要求されるであろう設備の追加コスト、環境や安全面での更新費用、中期的に発生するであろうオーバーホールの可能性などからクレーン設備の更新サイクルを考察して耐用年数を30年と評価しました。

物理的劣化の判定

 耐用年数の満了は直ちに機能的な価値の終結を意味しません。これまで通りの適切なメンテナンスがなされれば、評価上の耐用年数が満了しても、主要な業務工程として使用価値を維持していると考えられ、次年度以降においても一定の残存価値が継続すると考えるのが妥当です。

耐用年数(使用年数/耐用年数)の考え方

 耐用年数分析は、コストアプローチの肝ですが、以下のプロセスによって資産の残存耐用年数を確定します。

  1. 対象資産の検分およびその状態の判断
  2. 顧客の記録の調査
  3. 対象資産の通常耐用年数の決定
  4. 実際使用年数または残存使用年数の決定
  5. 物理的減価を数学的に決定

 資産は耐用年数が20年で15年が経過(実際使用年数)していても、検分により劣化や退化を伴っていなければ、その残存耐用年数が10年以上の判断はあり得る。
 逆に、資産は耐用年数が20年で15年経過(実際使用年数)しているかもしれないが、苛烈な環境下での使用や異常な退化があれば、残存耐用年数は1年しかないこともある。
 合計耐用年数には、過去の使用、平均を上回るメンテナンス、追加資本、リビルドなどによって、現行技術に相当するものと比べて当該資産の費用効果が維持できることで、通常の予想耐用年数が伸びることも含まれる可能性がある。通常耐用年数が25年の機械が、30年後、50年後、あるいはもっと後にでも機能しているものが見られるのは、通常こうしたケースである。

※米国鑑定士協会テキストME201より抜粋

年代物の機械設備によくあること・・「時価」が「簿価」を確実に上回る

 法定耐用年数が満了した機械設備の簿価は1円にまで減じていますが、使用価値を維持していれば、時価評価額は簿価を大幅に上回ります。他にも時価評価額が簿価を上回るケースとしては、再調達価格の高騰、良好なメンテナンスによる高い現在価値の維持、当該事業への貢献度が大きい場合などが考えられます。

 一方で時価評価額が簿価を下回る場合は、再調達価格の下落、厳しい使用環境下での機械設備の劣化、技術革新による陳腐化、外部要因によって生じる経済的な後退などが見られる場合などが考えられます。

 機能を維持するための十分な追加投資と日常メンテナンスは、それを利用する社員の安全を担保するだけでなく資産価値を維持する上でも重要な要素と言えるでしょう。

米国鑑定士協会 認定資産評価士 田井 政晴

※ 本コラムは「銀行法務21 No.814⁄ 2017年5月号」に寄稿したものを要約しご紹介したものです。


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