知っておくべき不動産担保の基礎知識

不動産とは?

不動産とは何でしょうか。土地や建物のこと?そう、そのおりです。民法八六条一項に「土地及びその定着物は、不動産とする」と規定されており、不動産は「土地」と「建物」と考えてよいでしょう。

※ 本コラムは「JA金融法務 No.541/ 2016年1月号」に寄稿したものを転記したものです。
[amazonjs asin="4766824032" locale="JP" title="図解でわかる不動産担保評価額算出マニュアル"]

「土地」とー口にいっても宅地・農地・林地などと分けることができます。そして、例えば宅地は住宅地・商業地・工業地等に、さらに、住宅地は高級住宅地・普通住宅地・混在住宅地などと細分化して捉えることができます。「建物」についても、オフィスビル・マンション・戸建住宅などと分けることができ、構造別にも木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造などと分けることができます。

また、「土地」については、所有権以外の権利として借地権(賃借権、地上権)や区分地上権といったものが存在します。加えて、例えばマンションでは、同じ面積で同じ棟にあったとしても、階層やバルコニーの方位、角部屋か中間戸かなどによって価格が異なってきます。不動産はこれらの組み合わせにより構成され、その経済価値が価格や賃料として表示されるわけです。

このように、不動産は千差万別、一つとして同じものはなく、そこが面白くもあり、また難しいところでもあるのです。不動産は、前述のようにーつひとつとして捉えると同時に、地域で考える必要もあります。

例えば、もともと小工場が建ち並んでいた地域が、工場の閉鎖や移転にともない徐々に住宅地域へと変化していくような場合、工場地域として捉えるのか、住宅地域として捉えるのかよっにて想定される需要層も変わってきますし、価格も変わってくることが考えられます。

また、その時代の社会情勢や人々の価値観によっても、不動産の利用形態は変化する可能性を含んでいます。東日本大震災以降、未用地利や閉鎖されたゴルフ場に太陽光パネルが設置され始めたことなどはその典型的なケースといえるでしよう。

融資と担保

金融機関は、企業や個人から余剰資金を集め、それを原資として資金が不足している企業や個人に融資を行います。融資時には安全性や合法性等の観点から審査し、融資を実行するわけですが、企業であれば売上不振、個人であれば失職等により返済が滞る場合があります。

金融機関は、このような場合でも貸出債権が確実に回収できるようにするための債権の保全を図るわけですが、この債権保全手段として担保があるわけです。担保は通常、「物的担保」と「人的担保」(保証)に分かれ、物的担保はさらに「不動産担保」「動産担保」等に区分されます。また、不動産担保には土地・建物のほか、工場財団等の各種財団もあります。

担保としての不動産

不動産担保は、債務者が破綻したときにその不動産を換価処分し、債権の回収を図るためのものです。したがって、担保にとる不動産は「すぐ売れるもの」が望ましいでしょう。処分に時間がかかれば不動産の価値が毀損し、価格が下がってしまう(すなわち、債権の十分な回収が図れなくなってしまう)可能性があるからです。しかし、肉や野菜のように店頭に置いておけばすぐ売れるようなものではないため、手続き等も含めて処分には一定の期間が必要となります。

例えば、競売手続では、競売の申立てから入札、物件の引渡しまで約一年近くの期間を要します。また、同じ不動産でも、戸建住宅や居住用のマンションであれば比較的容易に売却できますが、工場などのように用途が限定される不動産や、ホテル・旅館などのような事業用不動産は、なかなか買手がつかないため売却が容易でなはく、場合によっては当初の担保価値を大幅に下回る価格で処分せざるを得ないこともあります。

このように、すぐ「売れるもの」といっても、その見極めは難しいことではありますが、不動産の価値を判断するときは、まず「もし自分が買うのならば、いくらで買うか」という視点で考えるとよいでしょう。そのためには、普段から不動産に関する新聞広告、折込みチラシなどを見ておくことが役に立ちます。一度や二度ではなかなか不動産の相場感はつかめませんが、継続して見ながらいろいろな場所の分譲価格などに関心をもっておくと、徐々に「このあたりの土地は坪いくらくらいだな」「この売り物件は妙に安い。何か原因があるのかな」といったように、“不動産アンテナ“が働くようになってきます。

また、担保不動産は必ず「自分の目で見る」ことが必要です。筆者の経験でも、地図上のイメージと実際の不動産は異なっていることがほとんどです。特に、今では、インターネットを通じて提供されている地図サイトのサービス「Google ストリートビュー」を利用して、事前に場所のイメージをつかむこともできますので、事前のイメージと実際の現場との違いを体感してみるとよいでしょう。

抵当権

抵当権とは、債権者がある「もの」を融資の担保として取るが、債権者がその「もの」を取りあげずに持ち主や担保提供した第三者(物上保証人)に使わせておき、返済してもらえなくなったときに、担保に取った「もの」を金銭に換え、そこから他の債権者よりも先に債務を取り立てることができる権利です。

担保物権は、お互いの契約によって設けられるという点で「質権」と似ていますが、あるものを担保に取った抵当権者が、そのものを自分の手元に置かずに持ち主にそのまま使わせておくという点で「質権」とは異なります。

ただし、担保となるものを債務者の手元に残しておくため、「抵当権がある」ということを誰にでもはっきりわかるようにしておかなければ、担保制度としての意味をなさなくなります。

そこで、抵当権の存在を一般に示すことができる制度、すなわち「登記」をすることになります。しかし、「登記」できるものでなければ抵当権を設定することもできないので、結局、抵当権の目的となるのは不動産が主なものとならざるを得ないわけです。

抵当権の第三者への対抗要件は、不動産登記法による登記がなされていることです(民法一七七条)。なお、借地権のうち賃借権は登記されていないことがほとんどですが、建物に設定された抵当権の効力は借地権(賃借権)にも及ぶことが認められています。

また、複数の債権の担保のために同じ不動産について複数の抵当権を設定したときは、優先弁済を受ける順序は登記の時期の前後により決まります。

共同抵当権と根抵当権

担保設定の方法でよく利用されているのが、抵当権のほか、①共同抵当権と②根抵当権です。

① 共同抵当権
債権者が同一債権の担保として数個の不動産を設定する抵当権のことをいいます。共同抵当権は、複数不動産が同一債権の担保とのなっているため、担保価値の集積と危険分散を図る(不動産価値の下落時にも、複数不動産にのより担保価値の毀損を最小限に留める)ことができます。

我が国の法制が、土地と建物を別個の不動産としていることもあり、多くの場合、共同抵当権が設定されています。共同抵当権が設定されると、個々の目的不動産の登記に、これと共同抵当関係に立つ他の不動産が存する旨が記載されるとともに、共同担保目録が作成されます。実務の現場では「共担(きょうたん)」と呼んでおり、対象不動産の確定や担保徴求漏れをチェクッするときにも用います。

② 根抵当権
極度額の範囲内で不特定の債権を担保する抵当権のことをいいます。当事者は設定契約において、被担保債権の範囲、債務者および極度額は必ず定めなければならず、登記においても必ず記載しなければならない事項となっています。



  1. 知っておくべき不動産担保の基礎知識 <- 本記事
  2. 担保の適格性と不適格性
  3. 対象不動産の確定と法定地上権
  4. 必要資料の収集と各種調査

レポートの続きはこちら1からわかる 不動産担保の実務①
[amazonjs asin="4765020010" locale="JP" title="金融マンのための 担保不動産の見方・調べ方 =図解と写真でやさしく理解できる="]
[amazonjs asin="4766824032" locale="JP" title="図解でわかる不動産担保評価額算出マニュアル"]