私のタワマン対策

 昨年の今頃から、都市部を中心にタワーマンション(以下「タワマン」)の売れ行きが鈍ったとか、販売価格が下がったという話が聞かれるようになりました。数ヵ月後の台風19号では、首都圏の一部のタワマンが浸水し、停電と断水により入居者が多大な不便を被るという事態も発生しています。タワマンといえば、高層階からの壮大な眺望がビジネス社会での成功の証とされてきたわけですが、ここにきてその価値観にも変化が生じつつあります。

 日本では、超高層マンションに対する法的な定義はありませんが、一般には建築基準法第20条の「高さが58mを超える建築物」とされる場合や、環境アセスメントが適用される「高さが98m以上の建築物」とされる場合などがあります(私の個人的な感覚では、階数が40階以上のマンションになります)。平成9年、容積率の緩和や日影規制を適用除外とする「高層住居誘導地区」が国会で承認され、これを機に都心部や湾岸エリアではタワマンの建設が加速し、少し遅れて郊外部や地方都市の駅前でもタワマンが建てられるようになりました。タワマンといえば、その圧倒的な高さに目を奪われがちですが、1棟あたりの住戸数が普通のマンションとは比べ物にならないほど多い点にも注意が必要です。具体的には、1棟で1,000戸を超えることも珍しくはなく、ツインタワー方式で3,000戸近くになる物件もあります。すなわち、タワマンは建物自体がひとつの地域コミュニティを形成し、周辺の地域社会に対して様々な影響を及ぼすことになるのです。

 今回は、全国的に増え続けるタワマンをテーマとして、その問題点や将来性等について、当社と業務提携関係にある全国の不動産鑑定士にアンケート調査を行いました。なお、文中のカッコ書き(都道府県名)は、アンケート回答者の事務所の所在地を示すものです。

※ 本コラムは「ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.55」に寄稿したものを転記したものです。

ごもっとも

 北海道の帯広でも、閉店したスーパーの跡地でタワマンの建設が進められています。ただし、このタワマンは十勝エリアでは最高層ですが、高さは19階止まりで、総戸数も147戸に抑えられています。大きな地震が続く北海道では、高層階の激しい揺れや階段での避難等を考えると、建物をこれ以上高くするメリットはないのかもしれません。いずれにしても、地方都市のタワマンは街のシンボルであり、嫌悪施設であってはなりません(北海道)。

 竣工から20年が経過し、大規模修繕の時期を迎えたタワマンもあります。しかし、タワマンの修繕費は普通のマンションよりも高額なので、積立金の不足が原因で工事に着手できない物件も多いと聞きます。当初の修繕計画が甘めな上、投資目的で購入している人も多いので、積立金の追加徴収は困難です。しかし、このまま放っておいても修繕費は逓増する一方で、入居者の負担はますます大きくなってしまいます(宮城県)。

 数年前のタワマンブームでは、高層階の住戸が節税目的で購入されるケースが目立ちました。これは、当時の税制基準では階層別の効用比が考慮されていなかったため、高層階の住戸は実勢価格に対してかなり低く評価され、隠れ資産としての性格を帯びていたからです。この場合の購入者には中国人富裕層が多かったと記憶していますが、彼らが去った今、タワマンの価格が再びバブることはないでしょう(群馬県)。

 東京では、港区、中央区、江東区等のベイエリアでタワマンの集積が目立ちますが、「晴海フラッグ」(選手村マンション)の販売開始がこのエリアの市場に及ぼす影響は甚大なものとなります。「晴海フラッグ」は、タワマンは2棟だけですが、総戸数は5,000戸超と過去に類を見ない開発規模となっています。さらに、ベイエリアでは羽田空港の飛行ルート変更も騒音等の観点からタワマンの資産価値を脅かすことになりそうです(東京都)。

 タワマンといえば、マンションというよりは眺望を買うイメージが強いのですが、私が住んでいる川崎市では特定のターミナル駅付近に既に10棟を超えるタワマンが林立しています。さすがに、ここまで増えると眺望の質は低下し、日常生活においても他人の目を気にしなくてはなりません。毎朝のエレベーター待ちや、駅の外まで続く通勤者の行列等、タワマンは自分で自分の首を絞めているような気がしてなりません(神奈川県)。

あるある

 一般に「新築マンションは20年以内に売らないと損をする」と言われますが、タワマンの場合は普通のマンションよりも経年に伴う価格の下落幅が大きいような気がします。旧来からの高級住宅街に立地するヴィンテージマンションならともかく、タワマンの場合は一時的なブームで建てられた物件が多いので、経年とともに内外装が劣化し、本来のステイタス性が低下したタワマンは誰からも見向きもされなくなるおそれがあります(東京都)。

 タワマンは、縦に長い構造上、普通のマンションよりも軽量化を図る必要があります。その結果、住戸間の界壁はパーテーションのような簡易なものとなり、隣の物音が気になることも少なくはありません。また、タワマンは共用廊下が長く、換気が十分ではないため、人が住んでいない部屋の排水管に下水が逆流して悪臭が漂うこともあります。さらに、高層階は強風で揺れることもあるので、乗り物酔い等をされる方は十分な注意が必要です(愛知県)。

 友人のご両親は、長年芦屋の高級住宅街に住んでいましたが、高齢となったこともあり、数年前に神戸市内のタワマンに引っ越されました。子供たちの独立後、芦屋のお屋敷は二人で住むには広すぎたようです。こうしたケースが増えるのであれば、タワマンは資金力の豊富なシニア世帯を需要の中心とし、低層階には医療施設等を誘致してサービス付シニアタワーとして販売するのも面白そうです(兵庫県)。

 タワマンは、遠くから見ると美しく見える時もあるのですが、近くで見上げた時の圧迫感には凄まじいものがあります。これからタワマンが増えそうな地域では、自治体が景観条例を強化する等の方法で街の風情を守らなくてはなりません。また、タワマンはそのステイタス性の高さから関西では暴力団関係者に好まれる傾向があり、様々な面で嫌悪施設としての性格が強まっているように思います(福岡県)。

なるほど

 タワマンに住みたいのなら、いきなり購入するのではなく、まずは賃貸で様子をみるべきです。最初は心を奪われた眺望も、毎日見ていれば飽きがきます。高層階に特有な生活上の不便や不安も経験することができます。おそらく、大半の方は「タワマンはもういい」と感じるのではないでしょうか?タワマンを軸とした街づくりは、劇薬のように地価を上昇させますが、地価の上昇は必ずしも街づくりの成功を意味するものではありません(神奈川県)。

 日本では、タワマンといえば高級住宅のイメージが強いですが、数年前にロンドン郊外で大火災を起こした高層住宅は低所得者向けの賃貸住宅でした。そもそも、建物を贅沢に造り、設備や共用部を充実させたところで、総戸数が1,000戸を超えるような集合住宅が本当に「高級」なのでしょうか?建物内では階層による差別が横行するなど、私にはモラルの高い人たちが住んでいるようには思えません(千葉県)。

 マンションの大規模修繕工事に関しては、悪質コンサルタントの問題が指摘されています。これは、マンション管理会社、外部のコンサル会社、実際に工事を行う施工会社の三者が結託し、架空の相見積り等を行うことによって管理組合から過大な修繕費を徴収するという問題です。タワマンの場合は、普通に考えても修繕費は高そうですが、一般のマンションとは比較できない項目が多い点は気がかりです(京都府)。

 タワマンに限った話ではありませんが、投資マネーの流入によって価格が高騰した不動産は、投資マネーの撤退とともに価格は暴落する可能性があります。日本では、戸建住宅が証券化の対象となることはありませんが、マンション市場には大量の投資マネーが流れ込んでいます。投資マネーを雷に例えれば、タワマンはそれを吸収するための避雷針であるようにも思われます(大阪府)。

 地球温暖化に伴い、毎年のように台風や大雨等の自然災害が発生しています。災害には強いはずのタワマンですが、浸水等で電気系統が損傷を受ければ防災システムもダウンします。もし、そんな時に火災が起きてしまったら、何千もの人たちが巨大な建物から素早く避難することはできるのでしょうか?映画の見過ぎかもしれませんが、タワマンの安全性に関してはどこかで転機が訪れるような気がしてなりません(広島県)。

まとめ

 何かと問題の多い現代社会ですが、不動産市場では増え続けるタワマンの問題がクローズアップされています。神戸市のように、計画的な街づくりを進めるうえでタワマンの建築を制限した自治体もありますが、話が来れば喜んで受け入れる自治体もまだまだ多いと感じます。繰り返しになりますが、タワマンはあまりに住戸数が多いので、一時的なトレンドで建ててしまうと後が大変なことになります。地域全体で考えれば、急激な人口増によって社会インフラに過度な負担がかかり、結果的に住宅地としての利便性や快適性が損なわれてしまうこともあります。

 既存のタワマンに関する大規模修繕の問題も深刻です。今はまだ、初期のタワマンが建ってから20年程度ですが、これが40年、60年・・・となった時、タワマンの大規模修繕は本当に実現するのでしょうか?仮に、何らかの理由で修繕が行われず、内外装の劣化に加えて設備にも不具合が生じてしまった場合、そのようなマンションを中古物件として売り出すことはできるのでしょうか?普通のマンションなら、リノベ業者が買い取って再販というシナリオもありますが、タワマンの場合はステイタス性が高いので、中途半端なリノベはかえって資産価値を下落させるリスクがあります。また、古くなったタワマンの近くに最新の設備を備えた新しいタワマンが建つこともあるでしょう。そうなると、古くなったタワマンでは、当初の入居者が退去した部屋は長期にわたって空室となり、やがては建物全体が空室だらけとなってしまう可能性もあるのです。最悪の場合は、廃墟と化した巨大なコンクリートの塊が周辺住民の生活を脅かすことになりますが、それでもタワマンを壊すことはおそらくできないでしょう。何故なら、タワマンを壊すには莫大なお金がかかりますし、長期不在の外国人所有者を含む1,000世帯超の権利関係(議決権)を取りまとめることは事実上不可能だと思われるからです。

 タワマンの問題は、都市部における環境問題のひとつとして、今のうちから対策を練っておく必要がありそうです。例えば、中古のタワマンを専門に扱う官民ファンドを立ち上げ、物件の格付けや情報のデータベース化を図るような方法があります。不動産特定事業法のスキームを使えば、大規模修繕に必要な資金もファンド側で調達できるかもしれません。日本は、欧米に比べて中古住宅の普及率が低いと言われますが、タワマンの問題が契機となって中古住宅市場の整備が進むことを期待します。

神山 大典(不動産鑑定士)
藤代 純人(不動産鑑定士)



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