鑑定士試験の受験生へ

 最近、社内でも鑑定士試験を目指す若者が増えてきたように思う。休み時間などに勉強方法や個別の論点について質問を受けることもあり、私なりにこの試験に対して思うところを書いてみることにした。

不動産鑑定士試験

 私が旧2次試験に合格した平成10年当時、この試験は弁護士試験と公認会計士試験と並んで三大国家資格と呼ばれていた。不動産鑑定士の仕事に特別な能力が要求されるわけではないが、残念ながら試験だけは難しい。頭の良さなどは関係ないが、宅建や英検等とは準備すべき試験範囲の広さが違いすぎる。普通の生活をしながらコツコツやっていれば受かる試験ではないのである。一時的な気持ちの高ぶりなどでこの試験を目指したりすると、大きな犠牲を払うことにもなりかねない。目指す以上は相当な覚悟が必要であることを改めて強調しておきたい。

基本的な勉強姿勢

 お恥ずかしながら、私は新卒で入った会社を辞め、無職でこの試験に挑んでいた。試験範囲の広さを考えれば、とても勤めながら受かる試験だとは思えなかったからである。しかし、実際には学生や勤めながら合格した友人もいた。今思えば、何も朝から晩まで勉強しなくても合格できる試験だったということである。

 私は、2次試験に受かるのに3年の歳月を要したが、無職で3年はいただけない。はっきり言って、勉強方法が間違っていたのである。私は、試験に対する恐怖心から、広い試験範囲の大半をほぼ完全にカバーするような勉強をしていたが、それでは要領が悪すぎる。この試験は、どんなに時間をかけても大学受験のように万全の準備はできない。根が真面目な人は違和感を覚えるかもしれないが、「中途半端な準備でも、当日がんばって受かる」のがコツなのである。例えば、教養3科目の試験委員はその道30~40年のプロ、受験生が3~4年勉強したところでかなうはずがない。本番では出るはずもない典型論点を基準と同じように暗記しても、時間の無駄なのである。また、本番はTACの全答練とは違う。全答練上位者は、順位ほど実力に開きはないということを肝に銘じて、謙虚な気持ちで試験に臨んでほしい。この試験を一言でいえば「どんぐりの背比べ」である。過信や、謙虚さのない答案は間違いなく嫌われる。

暗記の罠

 この試験の特徴として、「不動産鑑定評価基準の暗記」がある。暗記とは、基本的には繰り返しになるわけだが、どこかでやめないときりがない。ある程度覚えたら、道を歩きながらブツブツ言うくらいがちょうどいいように思う。また、基準の影響で、他の科目についてまで過度な暗記に走らないように気をつけてほしい。本番では見たこともない問題が出るし、字も乱れる。汚い字で自分が暗記したとおりに書いたところで、試験委員に与えるインパクトは薄い。

科目別の勉強方法

① 民法

 問題文が複雑怪奇で焦ってしまうが、答案はシンプルでかまわない。拾えた論点ごとに「問題の所在(事例の引用)→原則論→問題提起→結論→理由づけ」を繰り返すだけである。難問でも、典型論点の類推適用や拡大解釈等で意外と得点していた記憶がある。論証例を丸暗記する必要はなく、論証例ごとにキーワードを5~10個くらい押さえておけば足りる。ただし、たくさん勉強していると民法特有の言い回しが身についてくるので、試験委員の印象はいいのかもしれない。

② 経済学

 図(モデル)ごとに簡単な説明文を自分の言葉で用意しておき、設問の趣旨に近そうなものを当てはめるしかないように思う。ただし、モデルの設定次第では大きく外す可能性もあるので、あまり時間はかけたくない。平均点が低すぎると、試験委員は国土交通省から怒られる。そのため、難問が出た場合は意外とゲタをはかせてくれるらしい。その意味でも、白紙や過度な余白は避けなければならない。

③ 会計学

 民法や経済を実務で使うことはないが、会計の知識は実務でも必要になってくる。証券化スキームの理解、事業用不動産の評価、連結ベースの時価注記等、会計知識の有無は評価の良し悪しに直結する。また、民法や経済とは違って比較的暗記色が強く、点が取りやすい。基本的な考え方はそんなに多くはないので、是非とも得意科目にしてほしい。会計学が苦手だという方は、少し遠回りにはなるが、簡単な簿記の本を読むことをお勧めする。

④ 鑑定評価(理論)

 最近は、実務的な問題が出るようになったとか、基準の暗記だけでは受からなくなったという話を聞くが、他人が普通に書いている基準の文章を書き損ねているようでは合格は難しい。実務的な論点はいくらでもあるが、鑑定士の意見は分かれていて、統一的な見解は少ない。どちらも正解にして意見を述べさせるという出題方法もあるが、実務的な論点についてはあまり深入りせず、予備校のレジュメを押さえる程度で十分である。なお、実務に従事している受験生もいるだろうが、それが決め手になるとはとても思えない。

⑤ 鑑定評価(演習)

 旧制度時代は2次試験に計算問題はなく、計算は3次試験の午後に3時間もの時間をかけて行われていた(いわゆる午後問)。私は、仕事は持っていたが、3次試験に受かるのに4年もかかった。計算問題は解答を読んで理解できない部分はないので、解答の暗記を優先し、実際に時間を測って問題を解く練習を怠ったのが原因である。実際、計算はたくさん練習した人ほど成績が伸びていた。ある意味、特殊な訓練のようなものなので、割り切って練習する以外に道はないのである。

鑑定統括部 藤代 純人(不動産鑑定士)


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