今回は登記事項証明書(以下「謄本」という)に記載してある内容のうち権利に関する登記が記載されている「権利部」を取り上げます。
権利部とは
権利部は甲区と乙区に分けられており、甲区を確認すると不動産の所有者等を知ることができ、乙区を確認すると抵当権等の設定状況を知ることができます。これら権利部に登記がある事によって、民法第177条で規定する対抗要件を備えた事となります。
こんな場合どうなる?
Aは自己の所有する土地をBに売却し代金を受領したが所有権移転登記は未了であった。その後AはCにも土地を売却し所有権移転登記を完了した。
このようにBとCのどちらもが所有者だと言える状況の場合には、所有権登記の有無によって所有者を決める事となります。本問においては登記のあるCが対抗要件を備えたと言えるのでCが所有者となります。(ただしCがAの近しい親族である等の信義則に反する場合を除く)
権利部の読み方
権利部には「順位番号」「登記の目的」「受付年月日・受付番号」「権利者その他の事項」の4項目があります。私の経験では「登記の目的」から対象不動産の問題点を発見できる場合が多く、実務では特に注意して確認するようにしています。
甲区
買戻特約
不動産の売主が買主の支払った代金および契約費用を返還することで売買の解除をすることができる特約。そのため、売主に買戻権を行使されると現在の所有者は所有権を失う可能性があります。
差押
お金を借りている人が返済できずに強制的に家を売られる秒読み段階といったイメージであるから。
乙区
地上権設定
敷地の全部または一部について他人が建物等を所有することが可能であるから。
地役権設定
隣の人の土地を通行させてもらう地役権が設定されている場合、隣の人の土地を通行させてもらうことで恩恵を受ける土地を「要役地」といい、通行される土地(隣の人の土地)を「承役地」と言います。
対象不動産が要役地である場合においても承役地である場合においても、建築確認時にそれぞれ建築敷地が重複されて確認を受けている可能性が予測され、違反建築物である可能性や、今後建築物の建替えができない等のリスクも考えられます。
「地役権設定」がある場合は、建築確認等の年月日と登記年月日を確認して時系列を把握する事はもちろん、「要役地」「承役地」に関する資料(開発登録簿や建築計画概要書等)を取得し精査する等によって融資対象の現状と今後を予測し把握する事が必要です。
仮登記の注意
登記には本登記と仮登記があります。仮登記とは本登記をするには条件が整っていない場合に、前もって順位を確保するための登記であるため、本登記には対抗力がありますが仮登記に対抗力はありません。ただし、今後以下のような事例が考えられるため注意が必要です。
こんな場合どうなる?
平成29年1月1日にAは自己の所有する土地をBに売却し所有権移転仮登記を完了した。その後Aは平成29年2月1日にCにも土地を売却し所有権移転登記を完了した。
このような場合Bは仮登記であるため、Cが所有者であると認められます。しかし、Bの仮登記が手続きを経て本登記となった場合、その本登記は仮登記をした時点から効力を発揮するため、BがCより先に本登記を行ったとみなされ、以降はBが所有者と認められてしまいます。
まとめ
謄本を読むことに慣れていないうちは、その内容を読み取る事に時間がかかるものです。回数を重ねていくうちに当たり前のように読めるようになるので、焦らずじっくり謄本を読んでその内容を読み取って下さい。
松橋 卓嗣
※ 本コラムは「JA金融法務 No.561 ⁄ 2017年8月号」に寄稿したものを要約しご紹介したものです。
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