新たな担保法制について その3

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は「新たな担保法制」の2回目です。

Ⅰ 譲渡担保法:

1.特筆すべき項目

 今回は下記の特筆すべき項目の(3)を採り上げます。

  1. 占有改定劣後ルールの導入(譲渡担保法(以下、法という)36条
  2. 集合動産の特定を種類と所在場所だけを示すことでできるようにした(法40条)
  3. 帰属清算・処分清算において、目的物の所有権が確定的に譲渡担保権者あるいは第三者に移転するのは、原則として、通知後2週間後(法60条、61条)
  4. 後順位担保権者の譲渡担保権の実行が、それに優先する全担保権者の同意を得れば可能となった(法62条)
  5. 競売申立て、配当要求も可能になった(法72条)
  6. 所有権留保についても譲渡担保の規定が準用される(法111条)

2.各項目について

 それでは見ていきます。

(3)帰属清算・処分清算において、目的物の所有権が確定的に譲渡担保権者あるいは第三者に移転するのは、原則として、通知後2週間後(法60条、61条)

(動産譲渡担保権の帰属清算方式による実行)
第60条 動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった後に動産譲渡担保権者が動産譲渡担保権設定者に対して次に掲げる事項の通知(以下この節において「帰属清算の通知」という。)をしたときは、当該被担保債権は、帰属清算の通知の日から2週間を経過した時又は当該動産譲渡担保権者が譲渡担保動産の引渡し(占有改定による場合を除く。以下この項及び次条第一項において同じ。)を受けた時のいずれか早い時(帰属清算の通知の後その時までの間に当該動産譲渡担保権についてその実行の手続の一時の停止を命ずる裁判又はその実行を一時禁止する裁判があった場合にあっては、その時又は当該裁判が効力を失った時のいずれか遅い時、当該動産譲渡担保権者が帰属清算の通知をする前に譲渡担保動産の引渡しを受けてその占有を継続している場合にあっては、帰属清算の通知の時。以下この款において「帰属清算時」という。)に、帰属清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅する。
一 譲渡担保動産をもって被担保債権の弁済に充てること。
二 帰属清算時における譲渡担保動産の見積価額及びその算定根拠
三 帰属清算時における被担保債権の額
(動産譲渡担保権の処分清算方式による実行)
第61条 動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった後に動産譲渡担保権者が第三者に対して譲渡担保動産の譲渡(以下この節において「処分清算譲渡」という。)をしたときは、当該被担保債権は、次項の規定による通知の日から2週間を経過した時又は当該動産譲渡担保権者若しくは処分清算譲渡を受けた第三者が譲渡担保動産の引渡しを受けた時のいずれか早い時(処分清算譲渡の後その時までの間に当該動産譲渡担保権についてその実行の手続の一時の停止を命ずる裁判又はその実行を一時禁止する裁判があった場合にあっては、その時又は当該裁判が効力を失った時のいずれか遅い時、当該動産譲渡担保権者が処分清算譲渡をする前に譲渡担保動産の引渡しを受けてその占有を継続している場合にあっては、処分清算譲渡の時。以下この款において「処分清算時」という。)に、処分清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅する。
2 動産譲渡担保権者は、処分清算譲渡をしたときは、遅滞なく、動産譲渡担保権設定者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
一 処分清算譲渡をしたこと。
二 処分清算時における譲渡担保動産の見積価額及びその算定根拠
三 処分清算時における被担保債権の額

1 概要

 これまで、実行において、譲渡担保権の他の担保物権よりも有利な点として、判例法上、裁判所の手続きに寄らないで、実行ができる点がありました(私的実行といいます)。私的実行には迅速性等の面で大きなメリットがあります。今回の法律の制定により、それが明文化されました。

 判例と同様、私的実行には、帰属清算方式(上記60条)と処分清算方式(上記61条)がありましたが、いずれも条文化されました。

 また、裁判所の手続による実行(競売申立て)も可能となりました(72条)(競売申立てについては、「新たな担保法制について その5」で解説予定)。

2 帰属清算方式による私的実行

 帰属清算方式は、目的財産を譲渡担保権者自身が完全に取得してその価値を被担保債権の弁済に充当するものです。
 上記条文第60条がその規定です。

 まず、債務不履行が生じますと、譲渡担保権者は、譲渡担保権を実行するかどうかを検討し、実行するということになった場合、帰属清算をする旨、目的財産の見積価額およびその算定根拠、そして、被担保債権額等を債務者に通知します(帰属清算の通知)。

 帰属清算の通知から2週間経過しますと、経過時に譲渡担保権者による目的財産の確定的取得、被担保債権の消滅が生じます。被担保債権の消滅は、帰属清算時における目的財産の時価相当額にて消滅します。よって、帰属清算時における目的財産の時価が被担保債権額よりも低い場合には、その差額は一般債権として残ります(譲渡担保権によって担保されない債権)。

 また、動産譲渡担保権にあっては、帰属清算の通知から2週間を経過していなくても、譲渡担保権者が2週間経過前に引渡しを受けていれば、その引渡し時に帰属清算の実行の効果が生じます。

 なお、目的財産の時価が被担保債権額よりも高い時は、譲渡担保権者は、その差額を設定者に対して返還します(帰属清算金の返還義務)(同条4項)。

 そして、設定者は、帰属清算金の支払われるまで、目的財産を留置でき(同条6項)、同時履行の抗弁権を主張できます(帰属清算金を支払わなければ、目的財産の引渡しを拒否できます)(同条5項)。

 帰属清算金は、見積価額と被担保債権額との差額ではなく、あくまでも、帰属清算時の目的財産の時価と被担保債権額との差額になります。

3 処分清算方式による私的実行

 処分清算方式は、目的財産を第三者に譲渡し、その代金を被担保債権の弁済に充当するものです。
 上記条文第61条がその規定です。

 債務不履行後に、目的財産を第三者に譲渡します。譲渡後、見積価額と算定根拠(第三者に譲渡していますので、おそらく譲渡担保権者は、譲渡価額を見積価額とするものと思います)、被担保債権額等を設定者に通知します。

 通知から2週間経過しますと、経過時に処分清算の効果が生じます。ただし、2週間経過していなくても、譲渡担保権者または処分の相手方(第三者)が目的財産の引渡しを受けているときは、引渡し時に実行の効果が生じます。

 目的財産の時価(第三者への処分価額ではありません)が、被担保債権額よりも高いときは、譲渡担保権者が設定者に対して、処分清算金の返還義務を負います(同条5項)。

 設定者は、処分清算金の支払われるまで、目的財産を留置でき(同条7項)、同時履行の抗弁権を主張できます(処分清算金を支払わなければ、目的財産の引渡しを拒否できます)(同条6項)。

4.動産譲渡担保権実行のための裁判手続の創設

(1)動産譲渡担保権の実行のための保全処分(75条)
 裁判所は、動産譲渡担保権者または処分清算譲渡を受けた第三者の申請により、設定者等による価格減少行為等を禁止したり、執行官による保管を命ずることができます。

(2)動産譲渡担保権の実行のための引渡命令(76条)
 裁判所は、動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった場合において、動産譲渡担保権者が帰属清算の通知または処分清算譲渡をするために必要があるときは、動産譲渡担保権者が帰属清算の通知または処分清算譲渡をするまでの間、動産譲渡担保権者の申立てにより、担保を立てさせて、動産譲渡担保権設定者等に対し、譲渡担保動産を動産譲渡担保権者に引き渡すべき旨を命ずることができます。

(3)動産譲渡担保権の実行後の引渡命令(78条)
 裁判所は、帰属清算時または処分清算時の後、動産譲渡担保権者等の申立てにより、動産譲渡担保権設定者等に対し、譲渡担保動産を動産譲渡担保権者等に引き渡すべき旨を命ずることができます。


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