不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は「新たな担保法制」の4回目です。
なお、以下の項目以外にも、特筆すべき重要なものとして、不動産鑑定評価に関係する集合動産譲渡担保権の実行や牽連性担保権優先ルールについても、この一連のコラムで解説をしていきたいと思います。
Ⅰ 譲渡担保法:
1.特筆すべき項目
今回は下記の特筆すべき項目の(4)(5)を採り上げます。
- 占有改定劣後ルールの導入(譲渡担保法(以下、法という)36条
- 集合動産の特定を種類と所在場所だけを示すことでできるようにした(法40条)
- 帰属清算・処分清算において、目的物の所有権が確定的に譲渡担保権者あるいは第三者に移転するのは、原則として、通知後2週間後(法60条、61条)
- 後順位担保権者の譲渡担保権の実行が、それに優先する全担保権者の同意を得れば可能となった(法62条)
- 競売申立て、配当要求も可能になった(法72条)
- 所有権留保についても譲渡担保の規定が準用される(法111条)
2.各項目について
それでは見ていきます。
(4)後順位担保権者の譲渡担保権の実行が、それに優先する全担保権者の同意を得れば可能となった(法62条)
第62条 後順位の動産譲渡担保権者(他の動産譲渡担保権に劣後する動産譲渡担保権を有する動産譲渡担保権者をいう。以下この条及び第77条において同じ。)がした帰属清算の通知又は処分清算譲渡は、当該後順位の動産譲渡担保権者が有する動産譲渡担保権に優先する動産譲渡担保権を有する動産譲渡担保権者(転動産譲渡担保権者が取得した権利を有する者を含む。)の全員の同意を得なければ、その効力を生じない。
同一の目的物に対して複数の譲渡担保権が設定でき、それら譲渡担保権は設定順位によって、実行における被担保債権の回収順位が定まっています。つまりこの複数の譲渡担保権は、1番順位の譲渡担保権、2番順位の譲渡担保権、・・・と設定されているわけです。もちろん、設定年月日によっては同順位もあり得ます。上記第62条第1項の条文は後順位の譲渡担保権者であっても実行できることを定めています。しかし、それが効力を有するには先順位の譲渡担保権者(先順位である転譲渡担保権者も含みます)の同意が必要になります。
なお、上記の点は、逆に言えば、後順位の譲渡担保権者は先順位の譲渡担保権者の全員の同意を得なければ実行することが難しいということが言えます。
第2項では、実行した後順位の譲渡担保権だけではなく、先順位の譲渡担保権の被担保債権も、帰属清算もしくは処分清算の通知から2週間経過しますと、その順位に従って消滅すると規定されています。これを消除主義といいます。
第3項では、本来であれば順位通り被担保債権に充当されて消滅していくのですが、消滅すべき順位や額については各譲渡担保権者間に特別の合意があるときは、それが優先する旨、規定されています。ただし、後順位の譲渡担保権者は、帰属清算・処分清算時以前に、設定者に対し、特約の内容を通知する必要があります。
第5項は、後順位の譲渡担保権者による実行において、同意をした先順位の譲渡担保権の被担保債権の弁済期限が到来していなくても、弁済期限が到来してしまうことを規定しています。したがって、先順位の譲渡担保権者とすれば不利益となる時期に実行されてしまう場合もありますので、同意にあっては慎重に判断する必要があります。
*第4項、第6項は略
(5)競売申立て、配当要求も可能になった(法72条)
第72条 動産譲渡担保権者による配当要求及び動産譲渡担保権者に対する配当又は弁済金の交付については、動産譲渡担保権を質権とみなして、民事執行法第133条及び第141条第1項(第4号に係る部分に限る。)(これらの規定を同法第192条(同法第195条の規定によりその例によることとされる場合を含む。以下この項において同じ。)において準用する場合を含む。)並びに同法第142条第2項(同法第192条において準用する場合を含む。)において準用する同法第91条第1項(第4号に係る部分に限る。)の規定を適用する。
第1項は、動産譲渡担保権については、裁判所の手続きによる実行も選択可能とする規定で、動産に対する担保権実行の手続による民事執行法による実行が可能であることを明示しています。ちなみに民事執行法第133条は「先取特権又は質権を有する者は、その権利を証する文書を提出して、配当要求をすることができる」とあり、この条文の「質権」のところに「動産譲渡担保権」を当てはめることになります。
なお、上記「質権」とは動産質権のことを言います。
第2項にある民事執行法第190条は、「動産競売の要件」を規定する条文であり、動産譲渡担保権も第190条の要件を充足すると動産競売を実行できます。
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