新たな担保法制について その2

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は「新たな担保法制」の2回目です。

Ⅰ 譲渡担保法:

1.特筆すべき項目

 今回は下記の特筆すべき項目の(2)を採り上げます。

  1. 占有改定劣後ルールの導入(譲渡担保法(以下、法という)36条)
  2. 集合動産の特定を種類と所在場所だけを示すことでできるようにした(法40条)
  3. 帰属清算・処分清算において、目的物の所有権が確定的に譲渡担保権者あるいは第三者に移転するのは、原則として、通知後2週間後(法60条、61条)
  4. 後順位担保権者の譲渡担保権の実行が、それに優先する全担保権者の同意を得れば可能となった(法62条)
  5. 競売申立て、配当要求も可能になった(法72条)
  6. 所有権留保についても譲渡担保の規定が準用される(法111条)

2.各項目について

 それでは見ていきます。

(2)集合動産の特定を種類と所在場所だけを示すことでできるようにした(法40条)

(特定範囲所属動産を一体として目的とする動産譲渡担保契約)
第40条 動産譲渡担保契約は、次に掲げる事項を指定することにより、将来において属する動産を含むものとして定められた範囲(以下「動産特定範囲」という。)によって特定された動産(以下「特定範囲所属動産」という。)を、一体として、その目的とすることができる。
一 譲渡担保動産の種類
二 譲渡担保動産の所在場所その他の事項

 これまでは最高裁の判例で、構成部分の変動する集合動産も、その種類・所在場所・量的範囲の3項目を指定することにより、目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となるとされてきました1

 しかし、上記法40条を見ますと1号で「譲渡担保動産の種類」、2号で「譲渡担保動産の所在場所その他の事項」とあり、量的範囲の指定は必要なくなりました。ただし、集合動産譲渡担保の設定にあたり、集合物の量的範囲の指定が必要になる場合には、2号の「その他の事項」に該当しますので、対抗要件として占有改定2での引き渡しをする場合にはその旨を設定契約書に明記する必要がありますし、登記する場合3には、登記記録にその旨登記されることになります。(もちろん、設定契約書にはきちんとその旨も記載することになります)

 それでは、条文にある「動産特定範囲」に属する動産が一切存在しない場合に、集合動産譲渡担保権は成立するのでしょうか?

 これについては、成立しないというのが有力に主張されています。あくまでも「動産特定範囲」において現存が必要であると考えられているからです。4

 次の条文を見てください。

(集合動産譲渡担保権についての対抗要件の特例)
第41条 特定範囲所属動産を一体として目的とする動産譲渡担保契約(以下「集合動産譲渡担保契約」という。)に基づく動産譲渡担保権(以下「集合動産譲渡担保権」という。)を有する者(以下「集合動産譲渡担保権者」という。)は、動産特定範囲に属する動産の全部の引渡しを受けたときは、当該動産特定範囲に将来において属する動産(次項において「特定範囲加入動産」という。)についても、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有することを第三者に対抗することができる。
2 同一の動産について集合動産譲渡担保権と他の動産譲渡担保権(集合動産譲渡担保権を除く。)又は動産質権とが競合する場合において、当該他の動産譲渡担保権に係る動産譲渡担保権当初設定者(動産譲渡担保契約の当事者のうち譲渡担保動産を譲渡した者をいう。以下同じ。)又は当該動産質権を設定した者がその動産譲渡担保契約の締結又は質権の設定の時点における当該集合動産譲渡担保権に係る動産譲渡担保権設定者以外の者であるときは、特定範囲加入動産についての第32条(動産譲渡担保権の順位)及び第35条(動産譲渡担保権と先取特権との競合)の規定の適用については、集合動産譲渡担保権者が前項の引渡しを受けた時又は当該特定範囲加入動産が動産特定範囲に属した時のいずれか遅い時に引渡しを受けたものとみなす。

 上記法41条は集合動産譲渡担保権の対抗要件の特例です。

 1項で、現実の動産が動産特定範囲に存する場合は、引渡し(占有改定、みなし引渡しである登記)があれば対抗要件が具備されます。

 さらにそれだけではなく、将来その構成要素となる個別動産(これを特定範囲加入動産といいます)も、後に特定範囲に加入する物ではあっても、当初の引渡し時点ですでに対抗要件を具備しているものとされます。たとえば、動産特定範囲に属する現実の動産が10月1日に引き渡されて集合動産譲渡担保権が設定された場合は、特定範囲加入動産も10月1日に対抗要件がすでに具備されているものとして扱われます。もちろん、特定範囲所属動産について集合物としての同一性が損なわれていないことが要件として必要になります5

 また、前回のコラムで示したとおり、占有改定劣後ルールがありますので、集合動産譲渡担保権が占有改定で引渡しを受けている場合には、占有改定以外の引渡し6の受けた譲渡担保権等に劣後します(法36条1項)。

 ところが、2項によれば、同一の個別動産について動産譲渡担保権と集合動産譲渡担保権とが競合する場合で、動産譲渡担保権を設定した者がその時点における集合動産譲渡担保権に係る動産譲渡担保権設定者以外の者であるときは、当該個別動産が集合動産譲渡担保権の特定範囲に実際に所属するに至った加入時点の前後で判断することになります。つまり、個別動産譲渡担保権の設定が登記された後に当該動産が特定範囲に加入されますと、当該動産については、個別動産譲渡担保権が集合動産譲渡担保権に優先します。

 もちろん、占有改定劣後ルールが適用されますので、個別動産譲渡担保権の引渡しが占有改定である場合は、集合動産譲渡担保権が優先する場合があります。7(法36条1項)

1: 最高裁判所判決昭和54年2月15日最高裁判所民事判例集33巻1号51頁、同昭和62年11月10日最高裁判所民事判例集41巻8号1559頁 淡路剛久ほか著『民法Ⅱ物権 有斐閣Sシリーズ』361頁(有斐閣、第5版、2022)。

2:設定者がそのまま占有を継続し、設定者が以後譲渡担保権者のために集合物を占有する意思を表示することにより、動産の譲渡等の対抗要件であります引渡しとなります(民法183条)

3:法人が設定者となる場合に限ります:動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産債権譲渡特例法)3条

4:瀬戸口祐基「動産譲渡担保・集合動産譲渡担保の実行前における譲渡担保権者と譲渡担保権設定者の法的地位-譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案等についての一試論」民商法雑誌161巻3号297頁(2025)。集合動産譲渡担保の場合、集合物を一つの物と捉える集合物論を採用してきましたが、これは集合物を実体を有するものとして位置づけてきたからです(瀬戸口・前掲297頁脚注50)。

5:瀬戸口・前掲注(2)298頁。

6:現実の引渡し、簡易の引渡し(民法182条2項:譲渡時よりも前に現実の引渡しがされている状態で、後日、当事者が譲渡の意思表示をする引渡し)、指図による引渡し(民法184条:占有の代理人(例:倉庫業者)によって占有されており、譲渡人が譲渡をするにあたり、譲渡人が占有の代理人に対し、以後、譲受人のために占有する旨指図し、譲受人がその旨を承諾する引渡し)、登記(法人が設定者の場合)

7:集合動産譲渡担保権の引渡しが個別動産の加入時よりも後の場合、個別動産譲渡担保権の引渡しが占有改定の場合は、個別動産譲渡担保権が劣後します


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