不動産鑑定士で創価大学法学部教員の松田佳久です。今回は「新たな担保法制」の6回目です。今回は新法の目玉であります牽連性担保権優先ルールについてみていきます。
Ⅰ 譲渡担保法:
1.特筆すべき項目
過去のコラムでは、下記の特筆すべき項目について、採り上げました。
- 占有改定劣後ルールの導入(譲渡担保法(以下、法という)36条)(2025年9月のコラム)
- 集合動産の特定を種類と所在場所だけを示すことでできるようにした(法40条)(2025年10月のコラム)
- 帰属清算・処分清算において、目的物の所有権が確定的に譲渡担保権者あるいは第三者に移転するのは、原則として、通知後2週間後(法60条、61条)(2025年11月のコラム)
- 後順位担保権者の譲渡担保権の実行が、それに優先する全担保権者の同意を得れば可能となった(法62条)(2025年12月のコラム)
- 競売申立て、配当要求も可能になった(法72条)(2025年12月のコラム)
- 所有権留保についても譲渡担保の規定が準用される(法111条)(2026年1月のコラム)
2.牽連性担保権優先ルールについて
今回は特筆すべき項目には挙げておりませんが、これまでの譲渡担保権や所有権留保に関する最高裁判所判例や実務とは大きく変わるところだと思いますので、特別に採り上げます。
前回(1月のコラム)で記載しました下記の新法31条の条文は譲渡担保権に関する条文であり、所有権留保について下記109条になります。
第31条 次に掲げる債務(その利息、違約金、動産譲渡担保権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を含む。第37条において「牽連性のある金銭債務」という。)のみを担保するために締結された動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡は、譲渡担保動産の引渡しがなくても、第三者に対抗することができる。
①譲渡担保動産の代金の支払債務
②譲渡担保動産の代金の支払債務の債務者から委託を受けた者が当該代金の支払債務を履行したことによって生ずるその者の当該債務者に対する求償権に係る債務
2 前項の場合において、次条及び第35条から第37条までの規定の適用については、動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡の時に民法第183条に規定する方法(以下「占有改定」という。)以外の方法で当該動産の引渡しがあったものとみなす。
(動産の所有権の留保の対抗要件)
第109条 所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は、所有権留保動産の留保買主等から留保売主等への引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては、留保売主等を所有者とする登記又は登録)がなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる債務(その利息、違約金、留保所有権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を含む。)のみを担保するために締結された所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は、所有権留保動産(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産を除く。以下この項において同じ。)の引渡しがなくても、第三者に対抗することができる。
①第2条第16号イに規定する所有権留保契約における所有権留保動産の代金の支払債務
②第2条第16号ロに規定する所有権留保契約における償還債務(所有権留保動産の代金の支払債務を履行したことによって生ずるものに限る。)
3.牽連性ある担保権の優先特例
条文1項1号、2号にありますように①譲渡担保権において業務等に必要な動産を購入した場合の代金債務を担保する譲渡担保権と②代金が高額であるなど、一度に支払ができない場合などに、第三者が立替払いをする場合のその第三者の立替払金を債務者に請求(求償)する場合の債務を担保する譲渡担保権、の二つが牽連性のある譲渡担保権ということになります。
譲渡担保権によって担保されるのは、代金債務だけではなく、利息、違約金、譲渡担保権の実行費用、損害賠償金の合計額になります。
これらの譲渡担保権の場合、対抗要件であります引渡しがなくとも第三者(たとえば二重に譲渡担保動産の譲渡を受けた後順位の譲渡担保権者等)に対抗できます。対抗要件であります引渡しは、通常は、占有改定(民法183条)です(譲渡人が譲渡しても譲受人のために占有する意思を表示してそのまま継続して占有する引渡しを言います。これを現実の引渡しに対して、観念的引渡しとも言います)。所有権留保では、新法109条1項が同様の規定をしています。
その理由としては、前回も示したように、ア.動産の売主が当該動産を売ったことにより、買主の財産を構成することになり、さらに他の担保権者は当該動産を担保目的とすることにより当該動産に対し優先弁済権を行使できるわけですが、そのように他の担保権者が当該動産に優先弁済権を行使できるのは、ひとえに当該動産の売主のおかげですので、当該動産の売主は優遇されてしかるべきでありますし、それが公平にかなうことになります、イ.売主は代金を先に回収すべきところ、自身の担保権が他の担保権者よりも劣後してしまうということになりますと、売主は代金債権を保全する手段を失うばかりか、当該動産の取引そのものを中止する決断をすることになってしまい、買主(債務者)は二度と売ってもらえなくなってしまいます、ウ.競合する担保権者も融資先である買主が代金を完済しないまま売主から当該動産の引渡しを受けている可能性があることを想定すべき、の3つが理由です。
4.占有改定劣後ルールとの関係
新法36条1項には占有改定劣後ルールがあります(2025年9月のコラム参照)。すなわち、占有改定で対抗要件を具備した譲渡担保権・所有権留保については占有改定以外の方法によって対抗要件を具備した他の担保権に劣後するというものです。
しかし、牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権・所有権留保については、新法31条2項で、動産譲渡時に占有改定以外の方法で動産の引渡しがあったものとみなされますので、他の譲渡担保権者等が引渡しを受けた時よりも前または同時に譲渡担保権等を設定していれば、他の譲渡担保権等に優先します。
これに対し、牽連性ある金銭債務及びそれ以外の債務の双方を担保する譲渡担保権・所有権留保の場合は、牽連性のある金銭債務のみにつき、他の譲渡担保権者が引渡しを受けた時よりも前または同時に、引き渡し(動産譲渡登記、現実の引渡しや簡易の引渡し、指図による占有移転、占有改定を含む)を受ける必要があります(新法37条)。
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