アパート事業者から話を持ちかけられ、相続税対策で建てたアパートの稼働率が上がらず、地主が窮地に追い込まれる…。地方では昔からよく聞かれた話である。
しかし、今回の相続税改正で基礎控除が大幅に縮小された結果、東京23区では納税予定者が5倍に増えており、このアパート問題も今後は地方だけの問題ではなくなりつつある。
基本的な節税の仕組み
地主からすれば、土地の上にアパートを建てることによって税法上の特例措置(小規模宅地等の特例)が受けられる上、アパートの建築資金を銀行ローンで調達すれば、その分だけ課税資産を圧縮できる。
アパートの耐用年数は30年、最初の10年はアパート事業者の家賃保証付、銀行ローンの返済期間は20~30年。確かに、アパートが長期にわたって高い稼働率を維持できるのであれば、この仕組みは有効な節税手段となる。
稼働率の低下と社会問題化
この仕組みが社会問題化したのは、アパートの稼働率が当初の想定を大きく下回るケースが圧倒的に多かったからである。
例えば、それほどの資産家でもない年配のご夫婦が虎の子の土地を手離したくない一心からアパート事業者の話に耳を傾ける。当然、ご夫婦はその地域の空室率などはご存じない。家賃保証期間中は多少の減額改定で済むかもしれないが、保証期間の満了後、既に築10年を経過したアパートの賃料や稼働率を上げるのは容易なことではない。ご夫婦が定年退職していれば、ローンの返済原資はアパートの賃料収入のみである。稼働率が下がることによりローンの返済が滞れば、銀行は債権の回収手続きに入る。ご夫婦は、アパートどころか土地まで失うことになる。
優良住宅地上の低層アパート
東京23区内の住宅地は、ある程度の容積率と画地規模があればマンション適地となるが、そうでない画地は基本的には戸建住宅地である。したがって、土地の相場も戸建住宅としての利用を前提に、収益性や事業採算性よりも、地域の名声や生活利便性に基づいて形成される。
それでは、比較的優良な戸建住宅地に「無理やり」大した賃料の取れない低層アパートを建てた場合、不動産の評価的にはどのような問題が生じるのだろうか?
鑑定評価の基本的な考え方
自用の戸建住宅であれば、対象不動産の類型は「自用の建物及びその敷地」(以下「自建」)であるので、鑑定評価では原価法による積算価格をもって評価額とするのが原則である。すなわち、土地がいくら、建物がいくら、合わせていくらという計算になるので、土地価格の査定において優良住宅地としての土地の相場は評価額に反映される。
一方、対象不動産がアパートの場合、その類型は「貸家及びその敷地」(以下「貸家」)になるので、鑑定評価では収益還元法による収益価格をもって評価額とするのが原則である。収益還元法では、家賃収入から運営費用を差し引いた純収益を利回りで割り戻して収益価格を求めるので、たとえ優良住宅地に立地していても家賃水準が低ければ収益価格も低くなる。結果的に、土地建物一体としての収益価格が更地価格を下回るケースもある。
具体的な対応策
先ほどのご夫婦の話に戻ろう。もともとの土地が1億円、アパートの建築資金が5千万円だとしよう。しかし、年数の経過に伴って賃料と稼働率が下がり、銀行が回収に入った時点の土地建物の収益価格が7千万円だとすると、このご夫婦は、アパートはともかく、大事な土地まで相場を下回る値段で持っていかれてしまうことになる。
もちろん、それほどの優良住宅地ではなく、収益価格と積算価格の開差が小さければこのような問題は生じない。しかし、少なくとも収益価格が更地価格を下回った場合には、アパートの経過年数や稼働率を考慮の上、収益期間が5年程度の有期還元法(インウッド式)の適用を検討すべきであろう。何故なら、アパートの場合は月額家賃の半年分も立退料を支払えば、普通の入居者なら立退きに応じてくれることが多いからである。したがって、この場合の復帰価格は、更地価格から立退料と建物取壊し費用を控除して求めることになる。
鑑定統括部 藤代 純人(不動産鑑定士)
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