金融機関は、通常、企業や個人から余剰資金を集め、それを原資として資金が不足している企業や個人に融資を行います。融資時には安全性や合法性等の観点から審査し、融資を実行するわけですが、企業であれば不況、個人であれば失職などにより返済が滞る場合があります。金融機関では、このような場合でも貸出債権が確実に回収できるようにするため債権保全を図るわけですが、この債権保全手段として「担保」があるわけです。
私たちは、日常的に少額であれば、例えば飲み代とか、友人に貸したりしますよね。それは友人など既に信頼関係がある間柄で、相手が必ず返してくれるだろうという期待(確信?)があるからです。そして、お金を貸すけど、返してくれるまで友人の持ち物、例えば腕時計とかアクセサリーなどを自分によこせと言わないでしょう?すなわち「無担保」でお金を貸しているわけです。
では、もっと高額な場合はどうでしょう?それが友人ではなく、知らない人だったら?
金融機関はお金を貸すことを仕事としていますが、貸すお金も少額ではないし、貸す相手も友人ではありません。そのような、いわば信頼関係の無い相手にお金を貸す場合、返してもらえなかったときのことを考えておかねばなりませんね。そのためには、もし返してもらえなくなったとき、何らかの方法で貸したお金を取り戻さなければなりません。
例えば、お金を貸す代わりに腕時計を預かっていたら、その腕時計を売ってお金を取り戻すわけです。
金融機関は腕時計では取り戻せないような大きなお金を貸しますので、貸す代わりに不動産を担保として確保し、お金を返してもらえなくなったときには、それを売ってお金を取り戻すわけです。
担保は通常、「物的担保」と「人的担保(保証)」に分かれ、物的担保はさらに「不動産担保」「動産担保」等に区分されます。
不動産担保は、土地・建物のほか、工場財団等の各種財団があり、不動産担保の取得方法として、現在は抵当権や根抵当権が利用されています。
抵当権というのは、債権者が一定のものを担保として取るが、債権者がそのものを取り上げずに、持ち主や、または担保として提供した第三者(物上保証人)に使わせておき、貸したお金を返してもらえないときに、この担保に取ったものを金銭に換え、そこから他の債権者よりも先に債務を取り立てることができる権利です(優先弁済権)。
担保物権は質権と同じように、お互いの契約によって設けられるものですが、物を担保に取った抵当権者が、そのものを自分の手元に置かずに持ち主にそのまま使わせておくという点で質権と異なります。
抵当権の制度は、お金を借りた者がそのまま担保に提供したものを使って利益を上げられるので、工場などの生産設備などを担保にしてお金を借りるには極めて便利であり、資本主義の発展に伴って急速に発達しました。
ただ、こうした便利な制度も、担保となるものを債務者の手元に残しておくため、抵当権があるということを誰にでもはっきりわかるようにしておかなければ、担保制度としての意味を全くなさなくなります。
そこで、抵当権の存在を一般に示す制度、つまり登記ができるものでなければ抵当権を設定することもできないわけで、結局、抵当権の目的となるのは不動産が主なものとならざるを得ないわけです。
抵当権の第三者への対抗要件は、不動産登記法による登記がなされていることです(民法第177条)。また、複数の債権の担保のために同じ不動産について複数の抵当権を設定したときは、優先弁済を受ける順序は登記の前後により決まります(民法 第373条)。
出典:なぜ金融機関は不動産を担保に取るのか?|九段研社長 神山オフィシャルブログ
1965年生まれ。栃木県足利市出身。株式会社三友システムアプレイザル 取締役、株式会社九段経済研究所(当社子会社) 代表取締役。不動産鑑定士、MRICS。主な著書に「金融マンのための担保不動産の見方・調べ方」などがある。趣味は落語、競馬、ゴルフ、トライアスロン。