私のアセットタイプ

 2001年に誕生した国内リート市場は、2017年3月末時点で上場58銘柄、時価総額では11.9兆円の規模にまで成長しています。昨年は、前半こそ過熱した不動産市場を不安視する声も聞かれましたが、後半はマイナス金利が追い風となって大量の資金が市場に流入する結果となりました。

 証券化不動産の多様化に伴い、最近の証券化制度は単なる投資の枠を超え、街づくりを通じて社会的な意義や貢献が求められるようになっています。株式投資にも似たような側面はありますが、特定の事業分野にダイレクトに投資できる点では証券化制度のほうが仕組的に優れています。今回は、既に証券化の対象となっている不動産や、今後証券化の対象となりそうな不動産等について、当社と業務提携関係にある全国の不動産鑑定士にアンケート調査を行いました。なお、文中のカッコ書き(都道府県名)は回答者の事務所の所在地を示すものです。

※ 本コラムは「ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.37」に寄稿したものを転記したものです。

ごもっとも

 オフィスとレジデンスの二本立てで始まった不動産の証券化は、その後の15年間で様々な建物用途に波及し、最近ではホテルやロジスティクス等の人気が高まっています。また、政府は医療・介護や観光等の分野に重点を置いて市場の拡大を図っています。まずは、それぞれのアセットの特徴や今後の動向等について考えてみました。

 不動産ファンドにとって、オフィスは最大の投資先です。その価格や賃料の動向は、不動産市場のみならず、広く景気の良し悪しを判断する際にも重要な指標となるものです(福岡県)。
 オフィスというと手堅い印象を受けるかもしれませんが、他のアセットに向かったマネーは再びオフィスに回帰しています。例えば、日本への進出が遅れた韓国やマレーシアの投資家は、都心三区(なければ五区)のオフィスビルに絞って物件を探しています(東京都)。
 地方都市では、再開発事業等の影響で地域の中心が移行することがあります。こうした移行の流れにM&A等の動きが加わると、オフィス市場全体が新陳代謝によって再び活性化することになります(広島県)。

 他のアセットとの比較において、レジデンスは景気の影響を受けにくい点で投資対象としては安定しています。ただし、地震や津波等の影響もあり、物件の選別は以前よりも難しくなってきた印象を受けます(兵庫県)。
 格差社会の進行とこれに伴う富裕層の増加により、都心部では従来からオフィスエリアとされていた地域に賃貸マンションが建てられるケースが増えています。こうしたマンションは、皇居等の眺望を好み、通勤時間を嫌う外国人のアッパークラス等に人気が出ているものと思われます(東京都)。
 晴海地区では、オリンピックに向けて選手村の建設が進められています。オリンピックの終了後には、5,000 ~6,000戸の新規供給が予定されています。戸数的にも、一部の住戸は賃貸の上、不動産ファンドが取得することになりそうです(東京都)。

 昨年までは上昇を続けていた都心部の店舗賃料ですが、爆買いの鎮静化とともに賃料が下落傾向に転じれば、リテールファンドにとっては厳しい状況が続くことになるのかもしれません(東京都)。
 郊外型ショッピングセンターの開発により、顧客の流出が続く駅前商店街が後を絶ちません。こうした商店街を証券化し、ショッピングセンターで培ったノウハウを活かして再生することはできないでしょうか?全国的にみても、駅前とロードサイドのバランスが崩れている地域が多いように感じます(神奈川県)。
 地方都市では、商業中核である百貨店が撤退することも珍しくはありません。しかし、百貨店の撤退は地域住民に与える心理的なダメージも大きいので、地域の自治体や地方銀行が連携して証券化スキームの活用を検討してもいいように思います(栃木県)。

 高齢化社会の到来と、これに伴うネット通販の拡大により、物流施設の大型化やハイテク化が進んでいます。しかし、一方では人材不足、ドライバーの高齢化や低賃金等の問題が顕在化しています。こうした問題の解決には、コンビニエンスストア等のサテライト施設の拡充や、ドローン等の新技術の活用が不可欠だと思います(大阪府)。
 沖縄では、物流施設が増加して工業地の価格が上昇しています。沖縄は、大手企業が重要拠点を構える物流のハブ的存在でもあるのですが、リートを組成する物件が一件もないことを常々不思議に思っています(沖縄県)。
 仙台市の郊外では、路線商業地の価格よりも隣接する流通工業地の価格の方が高くなっているケースがあります。仙台のような地方都市でも、通販の拡大とともに物流は高度化し、既に証券化に耐え得るレベルに達しています(宮城県)。

 ホテル市場に関しては、「少なくとも2020年までは安泰」という見方が大勢を占めています。しかし、急増するインバウンドに合わせて供給が過熱気味になっている点は気がかりです。また、ホテルによっては外国人団体客を優先し、日本人宿泊客に対するサービスの質が低下しています(東京都)。
 都心か地方か、駅前か郊外か等、ホテルは他のアセットとの比較において立地上の柔軟性が群を抜いており、「地方創生」という時代のニーズにもマッチしています(大阪府)。
 投資対象としても好調なホテルですが、その収益構造は海外経済や為替相場の影響をまともに受けるものです。ホテルはこの点で、他のアセットに比べるとボラティリティが高いようにも思われます(北海道)。

 高齢化が進む地方都市では、オフィスやマンションよりも、老人ホームやシニア住宅等のヘルスケア施設のほうが証券化の対象としても伸びる余地があります(秋田県)。
 ヘルスケアリートの発展が、介護施設における労働環境の改善や、入居者に対する介護サービスの質の向上につながることを願います。ただし、運営コストの増加は賃料負担力を弱めることにもなるので、ヘルスケアリートに対しては減税等の優遇措置が必要になるかもしれません(埼玉県)。
 アメリカやシンガポールでは、ヘルスケア施設の不動産部分だけを長期的に保有する投資法人が数多く存在します。一方、日本国内における医療・介護の基本方針は、病院ではベッド数を減らして平均在院日数を短縮する、介護施設では施設数を抑えて在宅介護への移行を促すというものです。すなわち、医療から介護へ、介護も施設から在宅へという大きな流れが形成されようとしています(愛知県)。

あるある

 次に、これから証券化の対象となりそうな不動産についても考えてみました。政府は、2020年頃までにリート等の運用資産残高を30兆円の規模まで倍増させようとしています。数字的にも、この目標の実現には既存の証券化対象不動産に加え、新たな証券化対象を発掘する必要がありそうです。

 アメリカでは、FBI等の政府系機関が入居する建物も証券化の対象になっています。国が借金を返すためにも、そろそろガバメントリートを立ち上げる時期に来ているように思います。まずは、独立行政法人が所有する不動産から証券化すればよいと思います(神奈川県)。

 少子化の影響で、学生を確保できない大学が増えています。校舎を高層化し、上層階をオフィスとして賃貸するケースもあります。また、予算の少ない地方の自治体では、学校を建てること自体が困難になっています。国の教育レベルを一定の水準に保つためにも、学校や教育に特化したファンドを組成する必要があると思います(東京都)。

 急増するインバウンドに合わせて整備が急がれている民泊分野には、一日も早く証券化の手法を取り入れるべきです。賃貸よりも高い宿泊収入が得られるわけですし、リート等が率先してオペレーターとしての事業者を指導・育成していけばよいと思います(京都府)。

 空き家は年々増え続け、既に社会問題化しています。低迷する中古住宅市場を活性化するためにも、中古住宅を専門に扱うファンドの必要性を感じます。ホームインスペクション等の新分野も、こうしたファンドとともに成長していくのだと思います(新潟県)。

 遊園地や運動場等のレジャー施設は、社会的・公共的な存在意義が大きいものです。しかし、こうした施設は企業単独での運営が難しく、閉鎖に追い込まれるケースもあります。公共の福祉の観点からすれば、パブリックな不動産だけを集めたリートがあってもいいように思います(山梨県)。

 子育て支援の一環として、保育所の証券化を検討してほしいです。もちろん、証券化にはファンドとして収益を上げなければならない部分もあるので、例えば富裕層を対象とするヘルスケア施設と抱き合わせで証券化し、収益の一部を還元する形にできれば理想的だと思います(愛知県)。

なるほど

 最後に、特殊な不動産や、不動産の周辺に広がる他の資産についても考えてみました。将来的には、不動産を媒体として事業そのものを証券化するような時代が来るのかもしれません。

 昨年、兵庫県内で一般の企業法人が農地を購入しました。国の農業政策は旧態依然のままですが、農業の法人化や集約化と同時に農地や農業施設を投資対象とするファンドを立ち上げるべきです。また、養殖場や加工場等の漁業関連施設も面白いと思います(兵庫県)。

 植林から伐採までの期間が長期に及ぶ林業は、材木価格の低迷等により収益事業としては成り立ちにくい側面があります。しかし、防災上の必要性、教育プログラムへの活用、二酸化炭素の吸収源としての森林整備等、山林を証券化することの社会的意義は極めて大きいものと考えます(大阪府)。

 電気のエネルギー源としては、原子力や太陽光以外にも、水力・洋上風力・地熱等があります。不動産というよりは事業としての性格が強くなりますが、リート等が介在することによってエネルギーも身近な投資対象となります。水道や鉄道等の社会インフラにも同じことがいえますが、こうしたエネルギーや社会インフラの証券化には、国や自治体の財源不足をカバーする効果があるように思います(埼玉県)。

 船舶や大型機械等の動産は、物によっては不動産に匹敵する価値を有しています。最近は金融機関が動産を担保に取るケースも増えているようですが、動産は不動産に比べれば汎用性が低いので、証券化する際にはバックオペレーターを確保するなどの方法で事業の継続性を担保しておく必要があります(東京都)。

 医療・介護の分野で活躍するロボットや、先進的な医療にも対応が可能な高性能医療機器等の動産は、同じ医療系の資産として施設等の不動産と一括りで証券化できるとよいです。研究開発費の調達手段が多様化すれば、埋もれていた新技術が脚光を浴びることになるかもしれません(愛知県)。

 一般に、将来性のありそうな事業でも、担保力がなければ銀行融資は受けられません。しかし、最近流行のクラウドファンディングは、担保力のない若手起業家等に対する先物的な投資であり、そのリターンは出世払い的な性格が強いものです。例えば、統計上の成功率等を把握し、証券化の手法を使うことによって倒産隔離を確保できれば、出資者とともに成功例も増えることになるでしょう(千葉県)。

まとめ

 不動産といえば、以前は一部の専門家や事業者を除き、一般の方にはわかりにくい分野だったように思います。しかし、証券化手法の確立によって不動産は金融商品(投資信託)に組み込まれ、今では身近な投資対象となりました。実際、証券化市場では個人投資家の割合が高まっているといわれますが、こうした方たちは非常に勉強熱心で、不動産のことをよくご存知です。インターネット上で価格や賃料、利回り等の情報が公開されていることも市場の透明性に大きく貢献しています。しかし、同じ投資手段としての株式等と比べれば、証券化に馴染みがないという方はまだまだいます。せっかく、身近にも証券化されている不動産はたくさんあるのに、それが証券化不動産だとは気づきにくい点がネックです。例えば、建物の入口付近にその旨を掲示するなどの方法で周知を徹底すれば、一般の方も証券化に目を向ける機会が増え、その分だけ市場が拡大する可能性もあります。

 また、証券化の動きは依然として都市部に集中し、地方圏にはそれほど波及していないのが実情です。しかし、地方にも、証券化の手法を使えば再生できる事業体や施設があります。担保力はなくても事業性が高い場合や、オペレーション次第では大きく化ける可能性を秘めている場合もあるでしょう。例えば、アセットタイプに関係なく、特定の地方あるいは地域の不動産だけを投資対象とするようなファンドを立ち上げることはできないでしょうか?地方銀行の再編が進む中、地元企業にとって自治体や銀行以外の資金調達源を確保することの重要性はますます高まっています。ふるさと納税ではありませんが、地方側からも積極的に投資対象を売り込んでほしいと思います。いずれにしても、今後は我々のひとりひとりが不動産投資の社会的意義を自覚し、自分が理想とする社会の実現に向けて、より中長期的な視点に立って行動することが期待されています。

鑑定統括部 神山 大典(不動産鑑定士)
藤代 純人(不動産鑑定士)



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