私とアパートローン

 2015 年の相続税改正に伴い、一般に節税効果が高いとされるアパート建築が加速し、アパートローンは金融機関の主要な収益源のひとつとなりました。しかし、人口減少社会の日本でこのまま建築ラッシュが続けば、いずれはアパートの大半は空室だらけという事態(いわゆる大空室時代)を招くことにもなりかねません。そうなれば、もともと土地を持っていた地主層はともかく、家賃収入を見込んで土地建物のローンを組んだサラリーマン大家層はデフォルト(債務不履行)状態に陥り、大量の不良債権が発生することになります。その手始めなのでしょうか?春先には女性専用のシェアハウス業者が経営破綻し、資料の改ざんや、改ざんを認識しながら融資を実行していた金融機関の経営責任が大きな社会問題となっています。

 長引く低金利下において、レバレッジが効く不動産投資に旨味があるのは確かです。しかし、最近は投資家間の競争が激化していることもあり、ローンを完済した上で利益を確保できる投資家は意外と少ないとも言われます。特に、アパートの場合は家賃や利回りが大きく変わることはないとしても、今後は長期的な空室率の見極めが重要なポイントとなりそうです。

 例えば、大阪では市内人口の増加に伴い、家事を代行する外国人の受入れが進められており、東京に比べて割安感のあるワンルームマンションに対する投資家の引き合いが強まっています(物件価格は東京の6 割程度です)。最近は、アパート自体が社会悪のように言われることもありますが、人口が増加傾向にある地域ではアパートが必要とされ、こうした地域のアパートは安定した投資対象となります。

 今回は、「アパート」をテーマに当社と業務提携関係にある全国の不動産鑑定士にアンケート調査を行いました。なお、文中のカッコ書き(都道府県名)はアンケート回答者の事務所の所在地を示すものです。

※ 本コラムは「ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.46」に寄稿したものを転記したものです。

ごもっとも

 関東圏では、一都三県に限れば人口は2025 年以降も15 年間で5%しか減らないという予測があります。これが本当なら、一都三県で標準的な物件を購入していれば、アパートで失敗することはないでしょう。ただし、アパートの場合は概ね10 年を過ぎると修繕費が逓増したり、家賃が下がるリスクもあるので、ローンの返済期間は15 年程度に設定し、その範囲内で買える物件を買うのがよいかと思います(神奈川県)。

 インターネットで老後の不安をあおり、老後資金の確保を謳い文句にアパート経営を勧誘するサイトが増えています。しかし、アパートで成功した人の大半は、相続で土地を取得した人たちです。私の近所には親の代から20 室程度のアパートを経営している男性がおりますが、この男性は相続を機に部屋数を40室まで増やし、今は絵画教室も閉鎖して遊んで暮らしているようです(京都府)。

 シェアハウスというと聞こえはよいですが、実際には共同生活への憧れよりも経済的な理由で入居している方がほとんどです。外国人が入居しているケースも多く、入居者間のトラブルが原因で放火された物件もあります。シェアハウスを普通のアパートと同じように考えてはいけません。民泊もそうですが、シェアハウスに関しても事業者(運営者)の指導・育成が急務となっています(埼玉県)。

 半年くらい前でしょうか?大手アパート事業者の違法建築問題がクローズアップされました。しかし、一般のオーナーからすれば、新築時はもちろんのこと、古くなってから不具合が発生しても、それが手抜き工事によるものなのか、通常の経年劣化によるものなのかを見分けることはできません。違法建築は極端な例だとしても、アパート経営には物としてのリスクが潜んでいることを認識しておく必要があります(愛知県)。

 常識の範囲で考えても、頭金もない人がフルローンでアパートを買うなどとは言語道断です。地元の不動産業者の間で、「あの物件は大家がローンを抱えていて、家賃を下げられないから、かえって空室が増えている」などと囁かれている物件があります。その物件は、地元の銀行で与信がつかず、別の投資系銀行がローンを出したそうですが、そんなアパートには誰も住みたがらないと思います(福島県)。

あるある

 最近は、インターネットで物件を探すのが当たり前になっています。インターネットでは希望条件を絞って物件を検索できるので、短時間で効率良く物件を探すことができます。反面、駅から遠い物件や築年の古い物件は最初から見向きもされなくなるため、ますます成約が困難となります。すなわち、インターネットはアパートを含む賃貸物件の二極化傾向に拍車をかけていることになります(宮城県)。

 物件選びのポイントのひとつとして、「エコジョーズ」を挙げたいと思います。電気代やガス代等、エネルギーコストに対する人々の関心は日々高まっており、賃貸市場でもLED照明や省エネ給湯器等が付いた物件は人気が高まっています。インカム面ではもちろんのこと、キャピタル面で考えてもエコ設備には追加投資を行う価値があるように思います(鹿児島県)。

 私見になりますが、東京の物件は値段が高すぎます。昔は当たり前のように地方から東京へ人が流れていましたが、最近は東北圏なら仙台市、九州圏なら福岡市といった具合に、圏域内の中核都市に人が集まる傾向が強まっています。この傾向が続くのであれば、東京と地方との利回り格差は将来的には縮小します。そう考えると、地方の優良物件は今が買い時なのかもしれません(福岡県)。

 高級住宅地ほど相続税対策が大事になりますが、高級住宅地にアパートを建てるのは愚の骨頂です。何故なら、マンションに比べて家賃が低廉なアパートの評価額(土地建物一体としての収益価格)は更地価格を下回ることもあるからです。つまり、土地だけで考えればもっと高いのに、アパートがあるために土地と建物を土地以下の値段で回収されてしまう可能性があるのです。なお、入居者の借家権には対抗力があるので、家主の一存でアパートを壊すことはできません(神奈川県)。

 家主と入居者の間にサブリース会社が介在する家賃保証型のビジネスモデルでは、サブリース会社は家主に対して賃料減額請求を行うことができます(借地借家法第32条)。家主側の対抗手段としては、定期借家契約にして特約で32 条を排除する手がありますが、一般のサラリーマン大家層に借家法の専門知識はありません。今さらですが、金融機関はアパート事業者に代わって家賃の減額リスクをキチンと説明するべきでした(東京都)。

なるほど

 都心部では、高級賃貸マンションで暮らす40 ~50 代の単身者が増えています。未婚化・晩婚化が進み、離婚率も高まっている社会状況下では、今後も所得水準の高い単身者が増えることが予想されます。キャリアウーマン等、女性の高所得単身者が多いのも特徴のひとつです。そうであるならば、投資物件は多少無理をしてでも高級物件にすべきです。キャッシュフローは安定しますし、管理上の負担も少なくなります。アパートや古い賃貸マンションは「安物買いの銭失い」となる可能性があります(東京都)。

 アパートローンでは、金融機関は人に対してお金を貸すので、デフォルトした場合、債務者は不動産担保だけでなく、それ以外の資産も返済に充てることになります。そこで、金利は多少高くても、アパートだけを返済原資とするノンリコースアパートローンを提案したいと思います。ノンリコースなら、金融機関も空室リスク等について真剣に検討するはずなので、デフォルトは減るように思います(埼玉県)。

 アパート事業者は、アパートを建てることが目的なのであって、家賃保証等は建築に付随する派生的な業務にすぎないのです。したがって、事業者が作成した収支計画書等は楽観シナリオとなっていることが多く、とても鵜呑みにできるような代物ではありません。また、地方では同一事業者が地域全体に同様な営業をかけるので、その地域はその事業者の物件だらけとなり、総崩れとなることもあります(香川県)。

 そもそも、田舎のアパートが20年も30 年も普通に回るはずなどないのです。街中でさえ、経年とともに稼働率が低下した物件は家賃の値下げを余儀なくされています。普通のサラリーマンが高利回りを求めてアパート経営に乗り出している状況下では、空室率や金利が上昇してデフォルトが多発すれば「日本版サブプライム問題」が勃発する可能性も否定はできません(宮城県)。

 日銀のコメントは微妙でしたが、当面は低金利が続くことになりそうです。レバレッジが効くので、大量の資金が不動産市場に入ってきます。そして、その資金を吸収すべく、市街地のあちらこちらで賃貸マンションが建設されています。しかし、こうした新築マンションの大量供給が既存アパートの空室率を高めているのであれば、低金利政策は自分で自分の首を絞めていることになります(東京都)。

まとめ

 金融庁が警鐘を鳴らしたこともあり、金融機関はアパートローンに対する融資姿勢を厳格化しています。最近は「融資額は売買代金の70%まで」とされることが多く、頭金のない人に対するフルローンや、売買代金に加えて不動産を取得する際の諸費用まで融資するオーバーローン等は影を潜めています(金利も多少は上がっています)。しかし、アパート供給量に関しては、現在も建築申請が増えている地域や、既に飽和状態となっている地域があるのも事実です。また、アパートの場合は新築時(1 回転目)の入居率は総じて良いのですが、中古物件となる2 回転目以降に新築時の入居率を維持できる保証はありません。そう考えると、新規の供給が多少は抑制されたとしても、ローンの完済前に入居率が悪化しそうな物件はいくらでもあるように思われます。

 しかし、見方を変えれば、アパートに対する借り手のニーズはまだまだ底堅いと考えることもできます。何故なら、総人口は減り始めていても、アパートのメインユーザーである単身世帯は増え続けているからです。そして、先進国の中でも特に高齢化が顕著な日本では、将来的には単身高齢者の方がアパートのメインユーザーとなる可能性があります。一般的な傾向として、高齢者の方は災害時における階段等での避難を考慮してなのか、あまり高い所には住みたがりません。また、高齢者の方には「あまり引っ越さない」という特徴もあります。老人ホーム等に入居できる方が全体の一握りにすぎないことを考えれば、入居率が低下したアパートはバリアフリー化等の方法でこうした高齢者の方の需要を取り込むことができます。また、最近は労働力の国際間移動が定着し、好景気も手伝って国のあちらこちらで外国人労働者が増えています。そこで、外国人労働者の多い地域であれば、特定の国に限定して入居者を募集したり、共用部分に外国特有の文化や生活様式を取り入れてみてはいかがでしょうか?

 不動産市場では、個人投資家の割合が高まっています。不動産が身近な存在になったのは喜ばしいことなのですが、同じ不動産でもアパートはリート等の投資信託とは違います。アパートローンを組むということは、実物不動産としてのアパートを所有するということです。リートであれば、不動産を原資とする証券を保有するだけなので、物回りの管理・運営はアセットマネジャーに任せておけばよいわけです。しかし、アパートの場合はそうはいきません。文中にもありましたが、アパート事業者はアパートを建てることが目的なのであって、その後の管理・運営は派生的な業務にすぎません(少なくとも、忙しい営業の方々にアセットマネジャーのような役割を期待することはできません)。そうなると、これからのアパート経営には「所有者自身が経営者になる」くらいの覚悟が必要になってきます。どこに、どれくらいの大きさのアパートを建てれば上手くいくのか?中古物件なら、新築物件と比べて何が劣っているのか?追加投資の価値はあるのか?それとも家賃を下げるべきなのか?悩みは尽きないかもしれません。それでもアパート投資をするのなら、銀行ローンを組む前に「自分の目で見て考える」、現地にも足を運んで関係者から話を聞くといった努力を惜しんではなりません。

神山 大典(不動産鑑定士)
藤代 純人(不動産鑑定士)



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