私のデジタル住宅

 コロナ禍は、発生から2年が過ぎようとしていますが、なかなか出口が見えません。今年はワクチンの接種も開始され、昨年ほどの混乱はなかったようにも思われますが、不動産市場では老舗料亭が閉店したり、名門ホテルの廃業が決まるといった大きな混乱が続いています。サラリーマンの勤務形態もテレワークの比率が高まり、このままいけば「オフィスに顔を出すのは週に一度が当たり前」という時代がやって来るのかもしれません。そうなれば、アセットとしてのオフィスの盤石性が崩れるとともに、住宅市場でもこれまでの価格相場は大きく塗り替えられることが予想されます。既に、首都圏では駅に近いマンションから郊外の戸建住宅に需要が流れ始めており、地方圏でも新幹線通勤圏とされるエリアでは新築住宅に対する問い合わせが目に見えて増えています。

 IoT(モノのインターネット)の言葉どおり、身の周りのあらゆるモノがインターネットに繋がり、デジタル化の波はいたる所に押し寄せています。例えば、車のメーターパネル等はもはやスマホ顔負けのIT機能を備えています。戸建住宅も設備面では進歩が認められますが、近年のスマート化の流れはどちらかというとマンションが中心で、戸建住宅はIT面では遅れを取ってきた印象があります。しかし、テレワークの普及に伴って需要の中心が戸建住宅へ移行するのであれば、戸建住宅は今後、IT面でも飛躍的な進歩を遂げる可能性があります。

 今回は、新時代の戸建住宅(デジタル住宅)をテーマとして、住宅に求められる新機能等について、当社と業務提携関係にある全国の不動産鑑定士にアンケート調査を行いました。なお、文中のカッコ書き(都道府県名)は、アンケート回答者の事務所の所在地を示すものです。

※本コラムは「ARES不動産証券化ジャーナルVol.64」に寄稿したものを転記したものです。

ごもっとも

 皆さんは、寝る前に窓を閉め忘れてしまったり、外出する時に冷暖房のスイッチを切り忘れてしまったことはないでしょうか?出先で駆られる衝動的な不安や、出かけ際の混乱を避けるためにも、施錠、空調、照明、追い焚き等のスイッチはスマホの端末から操作できるようにしたいです。また、自動車業界では自動運転技術の開発が進められていますが、住宅業界もこれを見習ってAIによる設備の自動化を積極的に進めてほしいです(千葉県)。

 これからの戸建住宅には、オフィス部屋が不可欠です。オフィス部屋では、PC機器や通信回線は収納型の机とセットで標準装備とします。また、Web会議で臨場感を出すために壁全体をモニター画面にしたり、部屋の隅々にスピーカーを配置するような工夫も必要です。会議がない日は、モニター画面に世界中のリゾート地のライブ映像を流します。天井や床までモニター化できれば、まさにリゾート感覚で働くことができます(東京都)。

 コロナ禍で、宅配便の利用機会は一段と高まっています。しかし、中目黒のタワーマンションでは宅配業者を装った強盗事件が起きたように、荷物を受け取る側の体制にはほとんど進歩がありません。近い将来、宅配業界でもドローンの活用が本格化するのであれば、戸建住宅も屋上にドローンの着地場所と荷物の受取口を設けておく必要があります。受取口にはセンサーを配置し、荷物は自動的に受け取る形にしたいです(東京都)。

 格差社会の進行や外国人労働者の受入れにより、残念ながら治安は悪化した印象を受けます。これからの時代は、普通の戸建住宅にも要人宅のような警備システムが必要になると思います。防犯カメラは最低でも3台は設置し、地元の警察または警備会社のサーバーに繋いでおきます。不審者が敷地に侵入した時はスマホに信号を送るほか、玄関や窓等の侵入口は自動的に強化シャッターが閉まる仕組みにしてほしいです(大阪府)。

 最近は毎年のように大きな地震が起きています。マンションの耐震性は向上していますが、戸建住宅も免震プレートくらいは備えたほうがよさそうです。また、アイスランドのように、地震が引き金となって火山が噴火することもあります。日本は同じ島国で、多くの活火山を抱えています。万一、火山が噴火すれば溶岩流や火山灰が都市を襲うことになります。戸建住宅にも、通信機能を備えた地下シェルターがあればよいと思います(福岡県)。

あるある

 オフィス部屋という話はよく聞きますが、子供の授業部屋という話はあまり聞きません。しかし、戸建住宅の需要者はファミリー層が中心ですし、世界的に子供への感染が広がる中、今後は学校や塾でのオンライン授業用に子供にもリモート部屋を用意してあげる必要があります。また、最近は家庭内で子供から親への感染が増えていますが、こうした家庭内感染を防ぐには玄関先にも洗面所を配置したほうがよいと思います(埼玉県)。

 コロナ禍で、楽器を始める人が増えています。過去には演奏家や音大生をターゲットにした防音マンションが流行った時期がありますが、戸建住宅に演奏用の防音ルームがあっても不思議ではありません。部屋には最新の音響機器をセットし、クラシック音楽なら自分が担当する楽器以外の楽器はAIに演奏してもらいます。楽器をやらない人でも、カラオケルームとして使うこともできるので、あっても損はないように思います(神奈川県)。

 温暖化時代の戸建住宅は、修理が必要な箇所を早期に発見する自己点検機能を備えるべきです。例えば、目が届きにくい天井裏等にセンサーを設置しておけば、ちょっとした雨漏りで柱や梁が傷んで多額の修繕費がかかる事態を防ぐことができます。また、柱や梁のジョイント部分にある定点の座標を管理すれば、地盤の緩みを検知したり、地震や経年劣化で建物が傾いた場合でもその後の重大事故を防ぐことができます(石川県)。

 今年は世界中で大規模な洪水が発生しています。水に浸かった家の資産価値は著しく低下し、修理にかかるお金も捻出しなければなりません。そろそろ、ハウスメーカーにも何か対策を考えてほしいです。例えば、基礎が浸水した時点で車のジャッキのような装置を使って建物を持ち上げたり、建物が流され始めた時点でエアバックのようなものを起動させて最悪でも水には沈ませないといった大胆な工夫が必要だと思います(岡山県)。

 コロナ禍でインテリアがブームとなり、その延長で観葉植物を始める人が増えています。しかし、どうせなら屋上か地下に農業用のスペースを確保し、野菜や果物を自宅で栽培できるようにしたいです。採光、室温、水量等は、栽培する品種や育ち具合に応じてAIに調整してもらいます。普段は建物内の庭として楽しむこともできますし、収穫物を近所で交換すれば地域内のコミュニケーション・アップにも寄与することができます(広島県)。

なるほど

 マイホームを購入しても、年月とともに地域が過疎化したり、自然災害等の風評被害に合うこともあります。さらに、もっと条件の良い場所が新規に開発されたり、団地内の中核施設に撤退されたのではたまったものではありません。私は、近未来の戸建住宅の一形態として、移動式住宅を提案します。住宅は車と同じように道路を移動し、移動先では指定されたエリアに駐車すればインフラもワンタッチで接続できるようにしたいです(宮城県)。

 在宅時間は長くなる一方で、今後も短くなることはなさそうです。ストレスで夫婦喧嘩やDVが増えていると聞きます。欧米との比較でも窮屈な感じがする日本の戸建住宅は、住んで飽きないための工夫が必要なのかもしれません。例えば、昔の忍者屋敷のようにカラクリ部屋を設けたり、ボタンひとつで間仕切りを変えられる装置がほしいです。なお、喧嘩の原因がテレワーク中の背景にあるのなら、垂れ幕式のスクリーンも不可欠です(東京都)。

 医療の潮流は治療から介護へ、介護も施設から在宅へと変遷しています。この流れが続くのであれば、毎日決められた時間に体温、血圧、酸素量等の測定を自動的に行い、自宅にいながら医師によるオンライン診療が受けられるヘルスケア戸建住宅のニーズが高まる可能性があります。お年寄りの中には、病院での相部屋や人との接触を嫌う方もいらっしゃいますが、AIの指示どおりに薬を飲むだけなら大丈夫という人は多そうです(愛知県)。

 近年の自然災害の猛威を考えると、戸建住宅にはいずれ生活インフラの自給化が求められると思います。ソーラーパネルの設置や、車のバッテリーを非常用電源とする取り組みは始まっていますが、水道も雨水等を濾過して建物内で循環させるシステムの開発が待たれます。また、古い住宅を解体すると大量の廃材が生じますが、まだ使える廃材にはデジタル加工を施し、別の新築住宅に活用する仕組みも構築してほしいです(京都府)。

 戸建住宅のIT化が進むのは結構ですが、ハッキングされた場合のリスクを忘れてはなりません。プライバシーの侵害だけではなく、役員宅ならテレワーク中に会社の機密情報が盗まれてしまいます。また、家中の家電機能が一斉に誤作動を起こせば、住人はパニック状態に陥ってしまいます。IT化を進めるのなら、セキュリティには万全を期すとともに、スイッチひとつで全ての機能をアナログに戻せるようにしておく必要があります(大阪府)。

まとめ

 コロナ禍で温暖化の問題が再び注目を集め、企業活動や消費行動にも大きな変化が見られるようになりました。身近なところでは、自動車業界がガソリン車からEVへ舵を切り、スーパーやコンビニではレジ袋が有料化され、不動産業界でも建物の環境性能を重視したESG(脱炭素化)の動きが強まっています。しかし、国によっては原子力への依存度が高まっていたり、CO2の削減目標が必ずしも十分とは言えない国も存在します。地球全体で考えれば、この問題が早期に解決する可能性は低く、私たちは来年以降も未曽有の自然災害や凶暴なウイルスに襲われる危険に晒されています。戸建住宅も、こうした危険に対して、これまでの常識にとらわれない思い切った対策を講じなければなりません。最初は大げさに思われても、諸々の対策が功を奏するのはそんなに先の話ではないような気がします。コスト面の課題は残りますが、新築住宅を取得する際の優遇税制を手厚くしたり、取得に際して補助金を出すような方法はあります。

 IT 化の波が広がったことで、産業界では業種の垣根がなくなってきた印象を受けます。例えば、IT企業が自動車を作り、自動車会社が街の開発に乗り出し、ヘルスケアの分野でも幅広い業種からの新規参入が続いています。日常生活の中で、品物の製造元を見て驚くことも珍しくはなくなりました。こうした傾向が続くのであれば、住宅業界でも他業種からの参入が加速し、これまでの住宅とは一線を画する新しいタイプの住宅が誕生することになりそうです。都市部に家を持つことがステイタスとされた時代は終わり、住宅選びのポイントは土地から建物にシフトすることが予想されます。数年後には、今は原野となっている場所に奇妙な形をした新時代の戸建住宅が建ち並んでいるかもしれません。日本はものづくりの国、技術大国です。産業界が持つ様々な技術が住宅に集約され、住んでいて楽しくなるようなユニークな住宅が誕生することを期待します。

藤代 純人(不動産鑑定士)



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