私とコインパーキング

 街中では、あちらこちらでコインパーキングを見かけます。最近はレンタカーとセットになっているケースも多く、とても便利です。こうした駐車場の大半は、少なくとも都市部では、古くなった建物が取り壊され、新しい建物の工事が始まるまでの間に限って暫定的に駐車場として利用されているものです。しかし、コロナ禍で経済が低迷し、着工の見合せ等が多発すれば、今後は都心の一等地といえども駐車場としての利用が長引くケースも考えておかなければなりません。

 普段から何気なく通り過ぎているコインパーキングですが、人通りが多く、容積率も豊富な土地が何年もの間「平置き」駐車場として使われてしまうのはもったいない話です。もちろん、第三者が普通に建物を建てると対抗力のある借地権(借地借家法上の借地権)が発生し、当初の事業計画に支障をきたすおそれがあります。しかし、路面階の駐車場はそのままの状態で、仮設工事のようなイメージで鉄骨を組み、スロープを設置することによって空間部分の利用スペースを確保することはできないでしょうか?以前、コインパーキング上にファミリーレストランが建っているのを見たことがあります。おそらく定期借地権を使っているものと思われますが、仮に壁や屋根をビニール素材で作れば建物とはみなされず、必ずしも借地権を設定する必要はなくなります。構造上の安全性が確保されれば、コロナ禍における特例措置として、風通しの良いコインパーキング上の空間の利用が認められても不思議ではありません。

 今回は、街中のコインパーキングに着目し、その空間部分の利用可能性について、当社と業務提携関係にある全国の不動産鑑定士にアンケート調査を行いました。なお、文中のカッコ書き(都道府県名)は、アンケート回答者の事務所の所在地を示すものです。

※本コラムは「ARES不動産証券化ジャーナルVol.61」に寄稿したものを転記したものです。

ごもっとも

 先日、大手不動産会社から「在宅勤務スペースに関する意識調査」というアンケートが届きました。どうやら、マンションでは狭くてリモート・ワークができないという人が意外と多いようです。ワクチンの接種が開始され、コロナ禍がピークを過ぎたとしても、企業には一定のリモート率が求められるはずです。不足するサテライトオフィスの一候補として、コインパーキング上の空間は会員制のレンタルオフィスにするのがよいと思います(千葉県)。

 コロナ禍で、自転車利用者が増えています。運動不足の解消になりますし、混雑する公共交通機関の利用を避ける狙いもあるようです。レンタサイクルのステーションは、今のところ商業施設の敷地等に場所が限られていますが、ステーションが増えれば認知度もアップし、利用客が増えることになります。コインパーキング上にステーションを設ければ、気軽に乗り捨てできるレンタサイクルの需要は格段に高まるものと思われます(神奈川県)。

 オフィス街で人気のフードトラック(キッチンの付いた小型トラック)ですが、ビルの隙間等の僅かなスペースに車を止めて営業していることが多く、どこに行けばどんなトラックが来ているのかがわかりにくい点もネックです。仮にコインパーキング上にトラックを集めることができれば、私たちはそこへ行くだけで様々な料理を注文することができますし、トラック側としても余計な場所取り等で頭を悩ませる必要はなくなります(東京都)。

 ネット通販の拡大は留まるところを知らず、宅配業界は慢性的な人手不足に陥っています。違法駐車の問題も根が深く、違反切符を切られたドライバーが身代わりに親族等を出頭させるケースが後を絶ちません。こうした事態を解決するには、サテライト施設を増やし、配送拠点をさらに細分化する必要があるわけですが、コンビニ等ではスペース的に限界があるので、コインパーキング上の空間を使うのが合理的だと思います(京都府)。

 テレワークが普及し、サラリーマンは会社に行っても上司や同僚を見かけない日が増えています。たまに一緒になっても、以前のようにランチや飲みに行くことはありません。しかし、このままでは対人関係の稀薄化やコミュニケーション能力の低下を招き、日本的経営の土台を揺るがす事態にも発展しかねません。風通しの良いコインパーキング上の空間は、夏場だけでもサラリーマンのための仮設居酒屋として使ってほしいです(大阪府)。

あるある

 健康志向は高まる一方ですが、自宅の近くにスポーツジムがあるという人は意外と少ないのではないでしょうか?コインパーキングは住宅街の中にもあるので、その上にランニングマシーン等を置けば、ジムに行く勇気はなくても何か運動を始めたいと考えている人たちが集まって来そうです。屋内のジムは入場制限をかけていますが、その補完施設として運営すれば、ジムの経営的にも会員の体力維持にもプラスに作用します(埼玉県)。

 コインパーキング上の空間は、マンションのモデルルームとして使うのがよいです。真下の駐車場が使えるので、車での来場者が増えることが予想されます。また、モデルルームの設置期間はそれほど長くはないので、暫定利用という点でもコインパーキングとの適合性は高いはずです。週末にはコインパーキング上の空間が大勢の家族連れで賑わい、学校やスーパーの下見も兼ねて周辺の商店街にも経済効果が波及します(神奈川県)。

 私の近所では、お寺の境内の一部で保育園の建設が進められています。おそらく借地であるものと思われますが、所有地でも借地でも、地価が高騰した都内で保育施設を新設するのは大変です。待機児童が増加し、女性の社会復帰が遅れているのなら、コインパーキング上には簡易保育所を設けてもよいでしょう。ビルの中よりは子供にとって健康的ですし、保護者の方も自宅や職場の近くで子供を預けることができます(東京都)。

 コインパーキングには、毎日のようにドライバーが集まってきます。仕事でも私用でも、普段から車に乗っている人たちなので、車好きな方が多いはずです。そこで、コインパーキング上の空間は新車の展示場として使うのがよいと思います。せっかく興味を持った車があるのに、自宅の近くにメーカーのショールームがなかったり、まだ買うと決めたわけでもないのにディーラーまで行くのは気が引けるという方は大勢いると思います(愛知県)。

 ブームを過ぎた感もあるメガソーラーですが、仮に全国のコインパーキングが一斉にパネルを設置すれば、国全体としては相当な量の電力を確保することができます。パネルは取り外しが簡単なので、駐車場から駐車場へと容易に移転させることもできます。将来的にEV の時代になったら、その場で充電することもできます。インフラリートには、地主やオペレーターとタイアップして駐車場ソーラーシステムを立ち上げてほしいです(兵庫県)。

なるほど

 ペットがブームになって久しいですが、ペットショップ等で動物を買う人は意外と少ないのではないでしょうか?昔は街中にもペットショップがありましたが、最近は百貨店の屋上等に場所が限られているため、動物たちは人目に触れにくい状況に置かれています。ペットショップがコインパーキング上で出張販売を行えば、近所の方に動物を見てもらうことができますし、気に入られた場合はそのまま連れて帰ってもらうこともできます(東京都)。

 実用化が遅れているドローンですが、将来的にはスマホのように広く普及する可能性があります。免許制にはなりそうですが、衝突回避機能を備えたドローンは個人レベルでも操縦が可能となります。そうなれば、買い物等はもちろんのこと、散歩や旅行にもドローンで行くような時代がやって来るのかもしれません。その時のために、コインパーキング上の空間はドローンの充電場所として全国的に整備を進めておく必要があります(三重県)。

 農業はデジタル化が進み、シティ・ファームという言葉も聞かれるようになりました。しかし、地価が高い都市部でいきなり農業を始めるのはさすがにリスクが高すぎます。そこで、まずはコインパーキング上の空間等を使って試験的に栽培を行い、様子を見ながら徐々に場所を広げていけばよいでしょう。地方では農家の後継者不足が深刻化していますが、都会でも農業ができるようになれば若い人たちの参入を促すこともできます(広島県)。

 コロナ禍でも、歌手のコンサートは行われているのでしょうか?コンサートでは、観客は歌手といっしょに大声で歌うことが多いので、従来のホールでは感染リスクが極めて高くなります。野外コンサートも一時期流行りましたが、その延長で大型のコインパーキング上の空間を使う手はあります。もちろん、加重制限がかかるので収容人数に限度はありますが、有料のネット配信等を併用すれば一定の興行収入を得ることができます(福岡県)。

まとめ

 スクラップ・アンド・ビルドはいつの時代にも行われ、車が人間社会にとって不可欠な存在である以上、街中からコインパーキングが姿を消すことはないでしょう。コインパーキングとして使われている土地は、潜在的に高いポテンシャルを秘めています。したがって、その空間部分を上手く利用できれば、その土地はもちろんのこと、地域全体としても相応の経済効果が得られるはずです。地方によってはパーク・アンド・ライド(車を駅に止めて電車に乗る)が常態化し、駅前の好立地でも駐車場として使い続けたほうが望ましい場合もあるようですが、その空間部分を有効に活用することの重要性は変わりません。

 東京のオフィス市場では、今後も大量供給が予定されています。さすがに賃料は下がり始めたようですが、新築ビルへの移転が進めば既存ビルの稼働率は悪化し、最終的には取り壊されるビルが増えることになります。しかし、オフィス不要論まで囁かれるようになった今、オフィス街の中に賃貸マンションを建てても高稼働は期待できず、オフィス跡地では未利用状態が長期化するリスクが高まっています。住宅市場でも、テレワークの普及に伴って需要者の選好には変化が生じ始めており、今後は都市部を中心に当初の開発計画や販売計画を見直す動きが出てくるものと思われます。そうなれば、本来は暫定利用であるはずのコインパーキングとしての利用が長引き、その空間部分に着目したビジネスが展開される可能性はますます高まってきます。

 店舗市場では、期間を限定してコラボ商品等を販売するポップアップストアや、AI を設置した無人店舗等の新業態が増えつつあります。こうした実店舗はいわばアンテナショップにすぎず、販売の中心は既にアプリに移行しています。ファッションブランドがハイストリートに店を構えるのも、そこで売上を稼ぐことよりも、ネット通販の発信地としての役割を重視しているからです。また、大手自動車会社が発表した未来都市計画によれば、インターネットの世界は人から物、物から街へと広がろうとしています。近い将来、ネット上で開催される地域イベントのアンテナショップとしても、街中のコインパーキングから新たな情報や文化が発信されることを期待します。

藤代 純人(不動産鑑定士)



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