私の負動産対策

 年明けには戦後最長(6年2ヵ月)と謳われた最近の好景気ですが、春先には中国経済の減速に伴って製造業の一部に減産等の動きが見受けられました。その後の景気判断である「緩やかな回復」もどことなく歯切れの悪い印象を受けますが、不動産市場では3,000 万人を突破した訪日外国人観光客や新東名・新名神等の高速道路網の整備拡充等が追い風となっており、投資物件に関しては賃料・空室率・利回りのすべての項目がピークと思われる水準に達しています。

 一方、個人が実物資産として所有する不動産に関しては、空き家の問題や地価の二極化が深刻化しています。加えて、最近は2020 年以降の住宅市場での需給バランスを懸念する声も強まっています。例えば、生産緑地(市街化区域内農地)の指定が解除される「2022年問題」や、団塊の世代が後期高齢者(75 歳)となり、相続案件が大量に発生する可能性のある「2025 年問題」等が挙げられます。こうした問題の市場への影響は限定的とする見解もありますが、いずれの問題でも宅地の過剰供給によって住宅市場では大きな値崩れが生じるリスクが指摘されています。

 今回は、既に時事用語として定着した感もある「負動産」をテーマとして、当社と業務提携関係にある全国の不動産鑑定士にアンケート調査を行いました。なお、文中のカッコ書き(都道府県名)はアンケート回答者の事務所の所在地を示すものです。

※ 本コラムは「ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.49」に寄稿したものを転記したものです。

ごもっとも

 まずは、身近なところで「負動産」化してしまった不動産の具体例についてです。全国各地には、どのような「負動産」が存在するのでしょうか?

 地方のローカル鉄道の駅前では、長期間放置されている空きビルが増えています。こうしたビルは、構造自体は鉄筋コンクリート造であることが多く、解体費用が更地価格を上回ってしまうため、壊すに壊せない状況が続いています。しかし、地震等で倒壊して通行人にケガを負わせるリスク等を考えると、ビルの所有者は固定資産税に加えて管理費や保険料まで負担し続けなければなりません(北海道)。

 北海道では、一部の大都市を除き、ほとんどの市町村で65 歳以上の老年人口率が40%を超えています。こうした市町村で相続が発生しても、相続人は既に札幌等に移り住んでいるので、相続人にしてみれば管理の手間だけが増えることになります。中には、相続人が建物の解体費用、数年分の固定資産税、所有権移転の登記費用等(計100万円ほど)を支払って隣地所有者に引き取ってもらったケースもあります(北海道)。

 新潟県湯沢町は、昔からスキーリゾートで知られています。町には、今でもバブル期に建てられたリゾートマンション群が残っています。しかし、スキー客がピーク時の4 分の1まで落ち込んだ今、大半の住戸は空き家となっており、管理費や修繕積立金の徴収もままなりません。町と地元の旅館業者等が今後の活用法を検討していますが、新潟ではインバウンドの恩恵も期待できず、具体的な進展はありません(新潟県)。

 田舎の空き家に関しては、近隣住民が迷惑を被るケースが増えています。例えば、近所の空き家にアライグマやハクビシン等が棲みついて子供たちに害が及んだり、スズメバチの巣が出来ているのに所有者がわからずに駆除できないといった苦情が寄せられています。下手をすると、夜中に放火され、山火事を起こす可能性もあります。空き家の所有者は、家を長期間留守にすることに伴うリスクの認識が甘いように思います(山梨県)。

 熊本の郡部では、熊本地震で大きなダメージを受け、倒壊寸前の状態のまま放置されている住宅を見かけます。中には、近隣住民から「危険」、「瓦の落下注意」等とスプレー書きされている家もあり、地震の傷跡を生々しく物語っています。こうした家の所有者は仮設住宅等に避難していますが、もともと住んでいた家の修復までは時間もお金も回らないのが正直なところだと思います(熊本県)。

あるある

 次は、「負動産」化してしまった不動産の利活用についてです。「負動産」には一体、どのような使い道があるのでしょうか?

 盛岡市の郊外では、長らく空き家となっていた戸建住宅を介護業者が買い取り、少人数用の介護施設として利用している例があります。特別養護老人ホームは数が足りませんし、有料老人ホームは入居一時金等が高くつきます。そう考えると、将来的にはこうした戸建老人ホームが全国的に普及する可能性もあります。入居者としても、住み慣れた地域を離れることなく介護を受けることができます(岩手県)。

 立地は良いのに建物が古く、地域の変化に取り残されている物件を見かけますが、こうした物件は信託銀行に預けるのが一番です。信託銀行は、既存建物を解体し、地域のニーズに見合った建物に建て替えて賃貸に供します。信託銀行が資金力の豊富なテナントを誘致できれば、旧建物の解体費はもちろんのこと、新建物の建設代金(ローン)も賃料収入で補うことができます(福島県)。

 日本人の英会話能力は極端に低いといわれますが、外国人観光客の増加や旅先の分散化傾向等を考えると、これからの時代は田舎でも英語が必要になってきます。そこで、空き家となった農家住宅等は、外国人講師を招いて英会話教室にするのも手です。

 附属建物が多い場合は、新鮮な野菜を使った農家レストランや、都会では近所迷惑となる楽器の練習場等を併設してもよいでしょう(群馬県)。

 商店街では、店主の高齢化や後継者不足等により全国的にシャッター通り化が進んでいます。しかし、大阪では、市内観光に便利な商店街で空き店舗がゲストハウス等に改装されるケースが増えています。商店街では、個々の店舗(兼住宅)は容積率を持て余していますが、画地併合等の手法で商店街全体を立体化できれば、ゲストハウス以外にも様々な需要を取り込むことができます(大阪府)。

 広島では、少子化の影響で小中学校の統廃合が進んでいます。廃校となった学校跡地には、公民館や老人保健施設等が建てられるのですが、これでは土地の利用効率が下がってしまいます。私は、学校跡地のような街中の大規模地には農業工場を建てるべきだと思います。日本の農業は旧態依然の個人経営任せですが、そろそろ農業の法人化やシティ・ファーム等に取り組んだほうがよさそうです(広島県)。

なるほど

 最後に、不動産の「負動産」化を防ぐことはできないのか?防ぐためには何をすればよいのかについて考えてみました。

 空き家の所有者が建物の解体をためらう最大の理由は、固定資産税の計算方法にあります。住宅地の場合、建物が建っていれば、土地の税額が更地の6 分の1 に軽減されます(都市計画税は3 分の1)。しかし、この制度が原因で倒壊等の危険が高い空き家が増えているのであれば、自治体は計算方法の見直しを検討すべきです。建物が建っていても、空き家と認められた場合は軽減措置を適用しなければよいと思います(宮城県)。

 「負動産」化が進んでいる地域では、個々の不動産が孤立している印象を受けます。建物をリフォームするとか、庭を手入れするといったこと以前に、地域が全体として抱えている問題を協力して解決しなければなりません。私の近所では、町内会や商店街組合がそれなりに活動はしていますが、自治体も地域の「負動産」対策にもっと力を入れてほしいと思います(埼玉県)。

 金融の世界でも、マイナス金利が始まっています。日本では最近の話ですが、昔ヨーロッパで同じことが起きた時は金庫が飛ぶように売れたといいます。不動産は、お金のようにしまっておくことはできませんが、似たような発想で考えれば建物は取り壊し、土地は雑草等が生えないようにコンクリートで固めてしまうのがよいでしょう。この状態では建築はできないので、課税上の地目も宅地から雑種地に変更してもらえるかもしれません(東京都)。

 空き家に関しては、まずは全国各地にどんな物件があるのかを見えるようにする必要があります。そのためには、空き家は登録制にして、空き家バンク等のデータベース化を進めます。価格や賃料も明記し、実際に売買または賃貸する際の諸手続きは空き家バンク(またはその委託者)が代行するようにします。情報のデジタル化は、空き家の流通性を格段に高めることになります(愛知県)。

 利用価値の低い山林等は、自治体に寄付を申し出ても断られることが多いそうです。しかし、だからといって民間での無償譲渡等を認めてしまうと、負動産の大半は外国人の所有となり、将来的には国家の安全を脅かす事態ともなりかねません。中国が南シナ海に進出し、朝鮮半島も予断を許さない状況下において、国や自治体は国防的な観点からも「負動産」を引き取る義務があるように思います(大阪府)。

まとめ

 地方を中心に「負動産」化が進んでいる理由としては、人口減少社会、民間業者任せの乱開発、実勢価格と課税上の評価額との乖離、自治体の対応の遅れ等が挙げられます。

 人口が減っている背景には、ネット社会の拡大に伴う価値観の多様化、具体的には未婚化・晩婚化・共働き等のライフスタイルの変化があるように思います。しかし、GDPは生産年齢人口が減ってもAI等で補うことができますが、不動産は使う人がいなければ価値は下がってしまいます。折しも外国人労働者の受入れが本格化していますが、今後は不動産市場でも外国人との共存を意識した街づくりを行う必要がありそうです。

 宅地の乱開発に関しては、誰かがどこかでブレーキをかけなければなりません。地元のデベロッパーによる宅地の開発は、人口を増やしたい(税収を確保したい)自治体の意向にも合致しています。しかし、人口動態を無視して宅地の供給を続ければ、いずれは地域全体の地価を押し下げる結果を招きます。毎年、節分の時期には恵方巻の大量廃棄が問題になりますが、不動産市場でも似たようなことが起きています。

 土地の実勢価格(時価)と課税上の評価額は、必ずしも一致するものではありません。実勢価格は、例えばバブル経済の真っ只中とバブル経済崩壊後、ミニバブル時とリーマンショック後といった具合に、その時々のご時世に合わせて大幅な上下動を繰り返します。一方、固定資産税評価等の公的評価では、実勢価格を参考にはしますが、一時的なトレンドに流されることなく、中長期的な観点から課税上の指標となるべき中立的な価格を求める必要があります。したがって、例えば不動産の証券化が進んでいるような地域では実勢価格のほうが公的価格よりも高く、逆に「負動産」化が進んでいるような地域では公的価格のほうが実勢価格よりも高くなる傾向があります。ただし、地価の下落傾向が長引いており、将来的にも回復の兆しがなさそうな場合には、公的価格の下げ幅を見直す必要があります。

 「負動産」には、資産価値が低い割には管理に手間がかかるという特徴があります。空き家対策特別措置法では、一部の空き家(特定空き家)に対しては自治体の権利行使(建物の解体撤去)が認められていますが、自治体はさらに、建物解体後の土地の売買や賃貸の斡旋を手がけることはできないでしょうか?自治体が窓口になれば所有者不明土地の透明性が高まり、街中では未利用地の有効活用が進むように思います。

 80 年代のバブル期には「土地神話」という言葉が流行りましたが、現在の不動産市場は「二極化」の様相を呈して久しく、一部の優良物件を除けば大半の不動産が「負動産」化のリスクに晒されています。しかし、ただでさえ格差社会と揶揄される現代社会において、今後も富裕層が所有する不動産だけが値上がりを続け、それ以外の不動産は下がる一方という状況は避けなければなりません。「負動産」とは、東京圏への一極集中や、マネー主導型の不動産市場におけるひずみでもあります。そろそろ、同じ不動産として「負動産」の救済にも目を向ける時期に来ているように思います。

神山 大典(不動産鑑定士)
藤代 純人(不動産鑑定士)



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