借地借家法の保護を受ける土地賃借権(借地権)と借り得について その2

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は前回(借地借家法の保護を受ける土地賃借権、すなわち、借地権であることの判断と借地権の価値は借り得によって生み出されているか)の続きです。

1.借地権判断のこれまでの振り返り

 評価対象が、土地の賃借権である場合、借地借家法の保護を受ける賃借権であるかどうかにつき、前回を振り返ります。借地権であるためには、「建物」所有目的であることが必要です。そこで、まず、「建物」所有目的であるかどうかを判断しますが、そのためには、借地上に建っているものが建物であることが必要です(「建物」は、「工作物」(民法265条)の概念より広く、ある程度の永続性を有し、住居、事務所、店舗、物の貯蔵その他の用途に供され、屋蓋(おくがい)、周壁等その用途に相応した構造を有し、原則として独立して登記され得る物を意味します。また、区分所有権の目的となる建物の一部分も含まれます)。

 「建物」であると判断された場合、次に、「建物所有目的」であるかを判断します(「建物所有目的」であると判断されるには、借地の主たる目的が建物所有にあることが必要ですし、賃借土地内における利用方法が建物利用だけではない場合、建物所有が主なのか従なのかで判断が異なります)。

 今回は第三段階として、借地権であるものの、それが「一時使用」であるかどうかを判断します。

2.「一時使用」性の判断

「一時使用」目的の借地権(借地借家法25条)には、借地借家法3条(借地権の存続期間)、同法4条(借地権の更新後の期間)、同法5条(借地契約の更新請求等)、同法6条(借地契約の更新拒絶の要件)などの規定は適用されません。このように存続期間や法定更新関係の規定が適用されないことから、「一時使用」の借地権は、通常の借地権のように存続保護されませんので、借地権が早期に消滅しますし、経済的価値はほとんど認められないものと思われます。

「一時使用」の借地権は、単に存続期間を短く契約するだけではなく、合意した期間だけ使用すれば土地貸借の目的を達するという客観的、合理的事情が必要であり、そのためには、賃貸借契約成立に至る動機、経緯、契約内容、契約条項、土地の位置および周囲の環境、建物の所有目的と規模・構造などを総合的に考慮して判断されます。

3.「一時使用」であると判断された裁判例

 どのようなものが「一時使用」と判断されているかにつき、まずは、「一時使用」と判断した裁判例を見てみましょう。

(1)東京高判平成5年12月20日判タ874号199頁

 これは、借地上に仮設構築物が建っている事案です。本件賃貸借契約の主たる目的は当初から一貫して、作業場および資材置場として一時的に使用することにあったもので、普通建物の所有を目的とするものではないと認めるのが相当であり、ただ、その目的を実現するには必要な限度でその付随的施設として前記のような仮設の構築物の設置が許容されたものと認めるのが相当であるとしています。

 そして、本件賃貸借契約は期間満了の都度毎年更新され、その都度契約書には一時使用の目的であることが明示され、その後それが変更されることもなく更新されてきたものであり、たとえそれが約15年にわたり、当初の仮設の構築物が5回にわたって増築され、その一部には人の居住が可能な施設が設けられ、現実に借主の会社の代表者家族がこれに居住したことがあったということを考慮しても、本件賃貸借契約は一時使用の目的を維持しているものと判断されています。

(2)東京高判昭和63年5月24日判タ695号194頁

 これは、昭和36年に一時使用の目的で土地を借り受けた後、1年ないし2年ごとに契約が更新されていったもので、昭和43年頃、賃借人が地主の承諾なしに突然建物を建てた事案です。

この事案につき、裁判官は、賃借人に対し、地主が賃借人との間であらためて期限を定めて、土地の一時使用目的賃貸借契約を締結した場合には、地主と賃借人の親密な間柄を基礎として、土地の賃貸借が一時使用目的から普通建物所有目的に変遷したとか、期間満了後も更新されることが期待されるというような賃借人の思惑は採用することができず、 一時使用目的の賃貸借であるから期間満了とともに賃借人は土地を明け渡さなければならない、と判断しています。

4.「一時使用」ではないと判断された裁判例

 では、「一時使用」ではないと判断された裁判例を見てみましょう。

(1)東京高判昭和61年10月30日判時1214号70頁

 土地賃貸借契約が一時使用を目的とし締結されたものであるかどうかは、契約書の字句、内容だけで決められるものではなく、契約書の作成を含めての契約締結に至る経緯、地上建物の使用目的、その規模構造、契約内容の変更の有無等の諸事情を考慮して判断すべきであり、一時使用のための土地賃貸借であるとは認めることはできない、としています。

(2)東京地判昭和58年2月16日判タ498号121頁

 公正証書等により一時使用の賃貸借であることが表示され、その期間を2年とした土地賃貸借契約について、一時使用か否かは客観的事情の有無に基づいて決すべきものであるとして、結局一時使用の借地権であることを否定しています。

総括

結局、「一時使用」であるか否かの判断は、契約書等に「一時使用」との文言があっても、他の事情を総合的に考慮して判断されるということになりそうですが、そのような判断を不動産鑑定士が容易にすることはできませんので、不動産鑑定評価書に「一時使用」の可能性がありそうな事案についてはその旨を記載するとともに、「一時使用」である場合の評価とそうでない場合の評価の両者を(どちらかを参考として)記載するのが良いものと思います。


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