抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲について

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田です。今回は、抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲とその基準について見ていきたいと思います。

1.付加物とは

 民法370条では「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ」とあり、この付加して一体となっている物を「付加物」あるいは「付加一体物」といいます(ここでは「付加物」と示すことにします)。付加物には付合物(民法242条)が含まれることについて異論はありませんが、従物が含まれるかについては争いがあります。古い判例(大連判大正8年3月15日民録25輯473頁等)は、従物は付加物に含まれないという前提に立ち、抵当権設定当時に存在した従物には、民法87条2項(従物は主物の処分に従う)により抵当権の効力が及ぶとしています。最判昭和44年3月28日最高裁判所民事判例集23巻3号699頁は、根抵当権設定当事に存在した従物に対し、民法370条により、根抵当権の対抗力が及ぶとしていることから、抵当権設定当時に存在している従物は民法370条の付加物に含まれると解されていることになります。しかし、抵当権設定後に付加された従物に抵当権の効力が及ぶかについては、判例は明確ではありません(大判昭和9年7月2日民集13巻1489頁は傍論として、抵当権設定後に附属させられた従物については民法87条2項を根拠として抵当権の効力が及ぶとし、大決大正10年7月8日大審院民事判決録27輯1313頁は、条文の根拠を挙げずに、抵当権の効力が従物に及ぶのは、従来の判例であるとしています)。

 これに対し、通説は、民法370条に基づき、抵当権設定後の従物にも抵当権の効力が及ぶとしています。また、付加物ではありませんが、借地権など建物の従たる権利についても建物抵当権の効力が及びます。

2.土地抵当権、建物抵当権のどちらの付合物・従物か?

 抵当土地上に建物が存し、当該土地および建物が債務者(または物上保証人)所有の場合、銀行等の金融機関における抵当実務であれば、当該地上建物にも土地抵当権と同順位での抵当権の設定を受け、共同抵当とするのが一般的です。しかし、実際の場面では、かならずしもそのような場合だけではなく、抵当権の順位が土地と建物とで異なる場合、土地だけに抵当権の設定を受ける場合などもありえます。たとえば、A銀行がB社所有の甲地(更地)に抵当権の設定を受けています。その後B社が甲地に建物を建てるときに、A銀行が建築資金の融資を拒絶したため、B社はC銀行から建築資金の融資を受けました。このような場合、当該新築建物(以下、乙建物といいます)にはC銀行の抵当権だけが設定されることになります。甲地上に乙建物新築前より定着する重機(以下、丙機といいます)が存するとした場合、丙機は甲地の構成部分なのか、乙建物の従物なのか、あるいは甲地、乙建物にはまったく従属しない動産(または不動産)であるのか、が問題となります。乙建物の従物である場合は、丙機が乙建物抵当権の目的物となり、配当の面でC銀行は丙機の担保価値相当額の利得を得ることになります。これに対し、甲地の構成部分である場合は、A銀行の利得となります。甲地、乙建物のいずれにも従属しない場合は、A銀行、C銀行のいずれも丙機における担保価値の利得を得ることができないことはもちろんですが、この場合、第三者が執行妨害目的で丙機の所有権等を取得する場合が出てくる危険性があります。

 不動産鑑定評価にあってはこのような丙機を評価対象外とすることが一般的だとは思いますが、かならずしも評価対象外とすることのできない事案もありますので注意が必要です。

3.判例・裁判例における従属基準

(1)土地上に建物がない場合

土地上に建物がない場合、土地の付加物、構成部分あるいは従物であるとしています(大判昭和13年12月13日法律学説判例評論全集28巻民法25頁は、抵当土地上に備付された水車附属品等は水車小屋の従物であるとして建物(水車小屋)抵当権の効力が及ぶとし、浦和地判昭和42年4月27日金融商事判例62号6頁は、抵当土地内に存する井戸は抵当土地の構成部分であるとしています)。

(2)建物のみに抵当権が設定されている場合

建物のみに抵当権が設定されている場合、建物の付加物あるいは従物であるとしています(奈良地葛城支判昭和38年8月23日判例タイムズ152号91頁は、抵当建物(旅館)外に存する抵当建物を囲繞する門塀は抵当建物の常用に供するために附属せしめられたものであり、建物抵当権の効力が及ぶとし、最判平成2年4月19日裁判集民事159号461頁は、借地上に建築されたガソリンスタンド用建物に設定された根抵当権の効力は、ガソリンスタンド諸設備(地下タンク、ノンスペース型計量機、洗車機など)は借地上または地下に近接して設置され当該建物内の設備と一部管によって連通し、当該建物を店舗とし、これに諸設備が付属してガソリンスタンドとして使用され、経済的一体性をなしており、当該建物の従物であるとしてこれら諸設備に及ぶとしています)。

(3)土地および建物双方に抵当権が設定されている場合

 この場合の従属基準は必ずしも確立しているとはいえません。名古屋地判昭和30年7月8日判例時報59号17頁は、建物内に存するものが建物の付加物であるとし、土地上に存するものが土地の構成部分であるとしています。東京地判昭和46年8月12日判例時報649号39頁は、旅館諸施設うち、上陸用桟橋は土地の構成部分ないしは従物、通行用トンネルは横穴式倉庫も含め、土地の構成部分、屋外プールは旅館建物の構成部分ないしは従物、岩風呂は土地の構成部分であり、脱衣場は旅館建物の構成部分ないしは従物であるとし、土地、建物への従属性の程度に基づき、判断がなされております。東京高判平成12年11月7日判例時報1734号16頁は、車庫を土地の構成部分と建物の従物との両性格を有するとし、建物の従物としたのは、車庫が建物に対する付属物としての経済的用途を有していることが判断基準となっています。最高裁(最判昭和44年3月28日最高裁民事判例集23巻3号699頁)では、土地およびその地上建物の双方に抵当権が設定されており、比較的広い庭園上の植木、石灯籠等に対し、石灯籠、取外しの困難な庭石等は土地の構成部分であるとしています。庭木、庭石、石灯籠等については、これまでの大審院判決および下級審判決でも土地の構成部分あるいは従物であるとの判断がなされており(前掲大判昭和13年12月13日、東京高判明治43年12月28日法律新聞716号21頁、前掲名古屋地判昭和30年7月8日)、判例法理は確立しているものといえます。

4.おわりに

 今後より多くの最高裁判決(判例)や下級審判決(裁判例)を集めることができれば、土地または建物に存する動産あるいは付合物が、土地あるいは建物のどちらの抵当権の効力の目的物の範囲に属するかにつき、より明確な基準を見出すことができるかもしれません。地道に判例・裁判例を収集していきたいと思います。

 また、同一土地上に主たる建物が複数存する場合に、経済的独立価値を有する土地定着物がどの建物に対する物であるかを適正に判断する基準を見出すことも、並行して取り組むべき課題だと思いますので、この点についても検討を進めていきたいと思っております。


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