サブリースとサブサブリース その1

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回から3回にかけてサブリーツとサブサブリースについて見ていきたいと思います。サブサブリースとは転借人が転貸借を専門とするサブリース業者(つまりサブサブリース業者)であり、このサブサブリース業者がさまざまな問題を引き起こしています。

1.バブル経済崩壊後におけるサブリース問題

 サブリースといいますとバブル経済崩壊後において一挙に噴き出した問題として、バブル経済を経験した不動産鑑定士にとっては生々しい感覚がよみがえるのではないでしょうか。

 サブリース(Sublease)は、転貸借のことを言いますが、日本では、大手の不動産会社がオフィスビルや賃貸マンションの一棟を一括して賃借し、転貸借する形のものをサブリースと言っていました。この大手不動産会社をサブリース業者と言いますが、賃貸人に支払う賃料と転借人から受け取る賃料との差額がサブリース業者の収入になります。

 このような賃貸人とサブリース業者との一種の不動産事業に借地借家法が適用され、サブリース業者が家賃減額請求権(借地借家法32)を行使できるかどうかが問題となりました。それというのも、大手不動産会社が都心一等地の所有者に働きかけ、オフィスビルや賃貸マンションを建築させるのですが、利用できる都心一等地は少ないために、大手不動産会社同士の競争が激しくなり、各社は一括借りの家賃を毎年あるいは数年毎に増額改定する旨の特約(家賃増額改訂特約や家賃保証特約等)を賃貸借契約に付し、その増額率等を競っていました。

 しかし、バブル経済崩壊により、地価だけではなく、周辺賃料水準も大幅に下がり、サブリース業者は転貸収入よりも賃貸人に支払う一括賃料の方が高くなるといった逆転現象が生じていました。当然、サブリース業者の経営は苦しくなります。そこで、サブリース事業であっても建物賃貸借であることに変わりはないとして、サブリース業者はこぞって借地借家法32条の家賃減額請求権を行使したのでした。

2.最高裁の判断

 東京地判平成4年5月25日判例時報1453号139頁と東京地判平成8年10月28日判例時報1595号93頁は、サブリース事業に借地借家法の適用があるとしました。前者は、「本件賃貸借契約の実質的目的が賃料収入または賃料収入の差額の確保の点にあることは当事者間に争いのないところであるが、その目的を達成するためには、種々の法形式を採り得るところであって、賃貸人も自認するごとく、本件においては、両当事者の自由な選択により、賃貸人・賃借人間の賃貸借契約および賃借人の転貸借契約方式が採られたものである。そうである以上、原則としては、両当事者の選択した法形式に従った契約法理を適用すべきは当然であるというべきである」としています。

 また、平成15年10月以降の一連の最高裁判決(最三小判平成15年10月21日最高裁判所民事判例集57巻9号1213頁(センチュリータワー対住友不動産事件)、最三小判平成15年10月21日判例時報1844号50頁(住友不動産対横浜倉庫事件)、最一小判平成15年10月23日判例時報1844号54頁(個人対三井不動産販売事件)、最二小判平成16年11月8日判例時報1883号52頁(三和リール事件))は、サブリース事業であっても、それは借家契約であり、しかも借地借家法32条1項は強行法規であるとし、減額を認容しました。最高裁の判断はそれだけではなく、家賃減額請求の当否および相当家賃額を判断するにあたっては、同法32条1項に規定された事情だけではなく、当事者間の衡平に照らして、同法32条1項の条文には存在しない、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情(以下、契約締結前事情という)を総合的に考慮すべきだとしました。いわば条文の修正適用です。

 一連の最高裁判決の出る前から、多くの学者が、このサブリース問題を取り上げ、借地借家法による保護の対象となるか否かにつき、白熱した議論を戦わせていました。一連の最高裁判決後においても、しばらくはその評釈をも兼ねて、論考が重ねられていましたが、徐々に学説の議論は下火になっていきました。

3.サブリース事業に借地借家法32条が適用された場合の鑑定評価

 サブリース契約における契約締結前事情が考慮された結果、個人対三井不動産販売事件判決(前掲最一小判平成15年10月23日)の差戻控訴審(東京高判平成16年12月22日判例タイムズ1170号122頁)判決では、適正家賃額が従前家賃額の約6割程度に下落している点、賃貸人の公租公課の負担や銀行借入れの金利負担が減少している点という事情のみならず、家賃保証特約の存在や保証家賃額が決定された事情、当事者間の交渉経緯などの事情をも考慮した上で、家賃減額請求権行使の要件充足を認め、相当家賃額を月額940万円と認定しました。これは、1審(東京地判平成13年6月20日判例時報1774号63頁)における不動産鑑定士の鑑定評価であります適正賃料月額603万5,000円よりも1.6倍も高いものとなっています。

 当初の月額家賃額1,064万840円から判決で示された940万円までの減額幅を構成するのは、賃貸人の公租公課の負担減および銀行借入れの金利負担減に相当する額ということがわかっています。

 このことから、サブリース事業における一括借入家賃額につき、家賃減額請求権が行使された場合の鑑定評価として、不動産鑑定士は、そのサブリース事業の、事業としての特性を十分に把握して、一括借入家賃額を判断することが必要になるものと思われます。周辺家賃水準の下落率をそのまま一括借入家賃額の算出に適用してはならないということになりそうです。


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