サブリースとサブサブリース その3

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回はサブリースとサブサブリース関連の3回目(最終)です。前回は主にサブリース事案を鑑定評価の側面から見てきました。今回はサブリース問題として新たに登場してきているサブサブリース問題を取り上げます。

サブサブリース問題とは

 サブサブリース問題とは、次のようなものをいいます。すなわち、国土交通省の推奨する「特定賃貸借標準契約書※1」(マスターリース契約書)では、あらかじめサブリース業者が転貸借をすることにつき、賃貸人が承諾する旨規定されており(特定賃貸借標準契約書9条1項)、実際のサブリース契約でもそのように規定されている場合が多いです。このとき、賃借人たるサブリース業者は、賃貸建物を実際に自己使用する者に転貸借するのではなく、サブリース業者(つまり、サブサブリース業者)に転貸借するのです。

 このサブサブリース業者が誠実な業者ではない場合、営業努力の懈怠の結果、一括転借している賃貸建物の全室を再転貸できず、空室率が近隣地域のそれよりも多い、あるいは近隣地域の家賃相場よりも低位な賃料額しか得られないという状態が作出されることになります。そうなりますと、賃借人たるサブリース業者は賃貸人とのマスターリース契約に規定されている賃料額※2を得ることができないことから、家賃保証をしている場合には、保証債務を履行することになります。

 それは、サブリース業者にとって、収支を悪化させる状況ですから、サブリース業者から賃貸人に対し、中途解約※3や家賃減額請求がなされる可能性が出てきます。

 中途解約は賃貸人の予想に反する事態であり、賃貸建物の建築費や取得費の回収に悪影響を与えることになります。家賃減額請求※4(借地借家法32条1項)にあっては、その結果次第によっては、それに対処しなければならず(借地借家法32条3項)、家賃が引き下げられる可能性があります。

 以上のような状況が作出されることになる問題をいいますが、サブサブリース問題に十分に対処しなければ、賃貸人に相当な不利益をもたらすことになります。

 サブサブリース業者はサブリース業者の関連会社のこともありますが、そうでなくとも、いわゆる「グル」であることが多いと思われます。

 転貸借に対する賃貸人のあらかじめの承諾あるいは承諾を不要とする規定のある場合における転貸借の相手方にはサブサブリース業者を含めることになるのかといった点が問題になるところです※5。つまり、サブリース業者との契約は賃貸人との信頼関係に基づきなされており、賃貸人とは何らの信頼関係のないサブサブリース業者が転借人としての地位を得ることは、賃貸人の事前承諾をした意思あるいは承諾を不要とする意思に反するのではないか、という疑問が論点として出てくるわけです。

転貸借が賃貸人によって事前承諾されている時に、サブサブリース業者への転貸借は許されるのか?

 賃借人が転貸借を行うには賃貸人の承諾を要します(民法612条1項)。この民法612条1項の賃貸借の承諾の意義については、民法を創設するにあたり審議を行った法典調査会に関する文献を見てみても全く示されていませんでした※6。小作の譲渡・転貸についてはこれを許していないのが地方の慣習であり、小作以外でも宅地や家屋の転貸借や譲渡を禁止していることがあり、その禁止を解くために賃貸人の承諾を必要とする規定としたようです※7。学説も賃貸人の承諾の意義について述べたものはありません※8。そうであれば、転貸借についての賃貸人の承諾の対象たる転借人を特定してすることも、特定しないで包括的一般的にすることも可能ということなると思います※9。実務では、条件付で包括的な事前承諾がなされることが多いとされています※10

 承諾の性質は、賃借人に対し譲渡・転貸の権利を付与する一方的意思表示、つまり単独行為と解されており、その時期・方法については、制限はなく、明示も黙示も問わないとされています※11。また、一度承諾すると撤回は許されないと解されています※12。また、承諾は賃借人に対してだけではなく、転借人に対してなされてもよいと解されます※13

 私見としては、転借人は実際に建物を使用収益する入居者を意味するというのが、賃貸人の通常の意思とすべきだと考えます。
もちろん、賃貸人の承諾の意思(あるいは承諾を不要とする意思)の表れとして、転借人にサブサブリース業者も含むという特約があれば別です。

 賃借人たるサブリース業者はサブサブリース業者に転貸した場合には、事前承諾を得ていないことになり、民法612条2項の解除権が発生しますが、もちろんそれには背信行為と認めるに足りない特段の事情がないことが必要になります※14。場合によっては、民法612条2項とは関係なく、信頼関係が破壊されたとして即時解除できる事案も出てくるかと思います。

サブサブリース場合の賃借人たるサブリース業者の一括借入賃料額のエンドの新規実質賃料に対する割合

 鑑定評価にあっては、前回のコラム(サブリースとサブサブリース その2)に、サブリース業者の一括借入賃料額のエンドの新規実質賃料に対する割合は80%である旨の割合方式の裁判例を掲載しました(サブリース業者の一括借入賃料額のエンドの新規実質賃料に対する割合80%の根拠は、空室率10%、サブリース業者の利益5%、経費5%で、計20%を控除)。サブサブリース業者が転借人である場合の賃借人たるサブリース業者の一括借入賃料額のエンドの新規実質賃料に対する割合は64%(80%のさらに80%(80%×80%))になってしまうのでしょうか?

 この点については、裁判例がまったくない状況ですので、裁判例から鑑定手法を見出す場合には、多くの裁判例が出てくるまで待たないといけません。

  1. サブリース規制法に規定する特定賃貸借契約、いわゆるサブリース事業におけるマスターリース契約(サブリース規制法2条4項、同5項、31条1項)の標準的なものとして国土交通省が定めたものです。以下のURLが特定賃貸借標準契約書です。
    https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001403658.pdf
  2. 賃料額については、特定賃貸借標準契約書では5条に規定されています。
  3. 特定賃貸借標準契約書24条(特約条項)関係の解説コメントでは、定めた期間が経過するまでは、解約ができないこととすることが望ましいとあります。また、期間内の解約については、サブリース業者は契約締結前に十分な説明をすることが重要であるとしています。さらに、期間内解約の規定を設ける場合には、民法の規定では解約申入れ後3か月経過時点での終了(民法617条、同法618条)とありますが、これを6か月とすることが望ましいとされています。
  4. 特定賃貸借標準契約書5条3項で、家賃改定日に、家賃額決定の要素とした事情等を総合的に考慮した上で、協議の上、家賃を改定することができる旨規定されています。
  5. 特定賃貸借標準契約書9条では転貸の条件が合意されますが、その条件は、頭書(8)「転貸の条件」に記載されます。しかし、サブサブリース業者への転貸を規制する旨を記載する個所は欄の最後にある「その他」の個所に記載するしかありません。この点につき、マスターリース契約の締結で、サブサブリース業者への転貸を禁ずる旨の条件を合意し、それを記載することはほとんどないと思われます。
  6. 法務大臣官房司法法制調査部監修『日本近代立法資料叢書4 法典調査会 民法議事速記録四』385-403頁(商事法務研究会、1984年)。
  7. 法務大臣官房司法法制調査部監修・前掲注(6)385-386頁、梅謙次郎『民法要義 巻之三 債權編(復刻版)』653-655頁(有斐閣、1984)。/li>
  8. 我妻榮『債権各論 中巻一』453頁以下(岩波書店、1957)、幾代通=広中俊雄編『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』269頁以下〔広中俊雄〕(有斐閣、1996)。
  9. 東京高判昭38・10・10判例総覧民事編25・663(傍論)。
  10. 長島・大野・常松法律事務所編『アドバンス 債権法』822頁(商事法務、2023)。この場合、転借人が反社会的勢力でないことなどが条件として設定されるようです(前掲・822頁)。
  11. 原田純孝「賃借権の譲渡・転貸」星野英一編代『民法講座 第5巻 契約』311頁(有斐閣、1985)。
  12. 最二小判昭30・5・13民集9・6・698,我妻・前掲注(36)456頁、広中俊雄『債権各論講義』171頁(有斐閣、1979)。
  13. 幾代通編『注釈民法(15)債権(6)』207頁(有斐閣、1966)。最二小判昭31・10・5民集10・10・1239は、「賃借人のなした賃借権の譲渡に対する賃貸人の承諾は、必ずしも譲渡人に対してなすを要せず、譲受人に対してなすも差支なきものと解すべき」としており、この判例からすれば、賃借人による転貸借に対する賃貸人の承諾についても同様に解されると思います。
  14. 最二小判昭28・9・25民集7・9・979、最一小判昭30・9・22民集9・10・1294、最三小判昭31・5・8民集10・5・475。

  1. 共有物の利用の円滑化に関する民法改正について(令和5年改正民法その1)
  2. 相隣関係に関する民法改正について(令和5年改正民法その2)
  3. 抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲について
  4. 法定地上権と配当について
  5. 未登記建物に対する対応
  6. 場所的利益について
  7. 借地権(底地)割合についての最新分析 その1
  8. 借地権(底地)割合についての最新分析 その2
  9. サブリースとサブサブリース その1
  10. サブリースとサブサブリース その2
  11. サブリースとサブサブリース その3 <- 本記事