相隣関係に関する民法改正について(令和5年改正民法その2)

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田です。今回は、令和5年で改正がなされた相隣関係について見ていきます。すでにこの4月1日に施行されています。

継続的給付を受けるための設備の設置権等(民法213条の2、同213条の3)

 民法の相隣関係の条文の中で最も問題となるのは、隣地通行権(囲繞地通行権とも言います。民法210条から213条)です。無道路地(民法上は袋地と言います)の所有者は公道に至るまで隣地を通行できます。この規定は物権ですので、強行規定であり、隣地所有者が通行を拒むことはできません。金融機関の内部規程では、このような無道路地を担保に取ることは許していません。しかし、場合によっては添え担保として担保取得する場合もありえます。そのときの担保評価としては、7次改訂の『土地価格比準表』に基づいて鑑定評価をするとすれば、たとえば、優良住宅地域の個別的要因比準表の画地条件の「無道路地」を見ますと「現実の利用に最も適した道路等に至る距離等の状況を考慮し取付道路の取得の可否及びその費用を勘案して適正に定めた率をもって補正する」とあり、それに従って評価を行うものと思います。その鑑定評価額に対して金融機関が掛け目を乗じて担保評価額を算出するものと思います。おそらくその掛け目は、金融機関によって異なるものと思いますが、私が以前に勤めていた静岡銀行では内部規定に基づき「掛け目ゼロ」とします。

 担保評価ではそうですが、隣地通行権に関する裁判では、現実の利用に即して隣地通行権として一定程度の幅員が認められます。たとえば、最一小判平成18年3月16日最高裁判所民事判例集60巻3号735頁は、1万5,200㌶の墓地の通路部分につき、自動車通行ができるような幅員を認めています(図参照)。そうなると有効宅地部分は墓地としての利用価値が出て、ある程度の鑑定評価額は認められるものと思います。もしかしますと図のような土地ですと担保価値も一定程度認められるのかもしれません。

 少し前置きが長くなりましたが、改正され新たに設けられたのが、都市ガス、電気、上下水道などのライフラインのない、いわゆる導管袋地につき、ライフライン設備の設置・使用権です。他の土地に設備を設置しなければ、電気、都市ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利を有することとされました(民法213条の2第1項)。その継続的給付には電話・インターネット等の電気通信も含まれます。また、他人が所有する設備を使用しなければ、上記ライフラインに基づく継続的給付を引き込むことができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他人の所有する設備を使用する権利を有することも明文化されました(民法213条の2第1項)。もちろん、設備の設置・使用の場所・方法は、損害の最も少ないものに限定されます(同条2項)。また、設備設置工事のために、その土地の所有者・使用者に生じた損害(同条4項2文、209条)、設備の設置により土地が継続的に使用できなくなることによって生じた損害(同第5項)、他人が所有する設備の使用開始の際に生じた損害(同条6項)に対し、償金を支払う必要があり、他人の所有する設備の使用により利益を受ける割合に応じて、設備の修繕・維持等の費用を負担しなければなりません(同条7項)。

 このライフライン規定が創設されたことにより、無道路地等に建つ既存不適格建築物や建築物を伴わない土地利用の効用を高めることができ、鑑定評価にあっては、土地あるいは建物に一定の価値の付加ができるのではないでしょうか。

 なお、上記の権利を主張するためには、訴訟を提起することも必要になりますが、その場合の弁護士費用は○○○、平均的な訴訟期間は○○○ですので、これら数値を駆使して鑑定評価をすることになるものと思います。

越境した竹木の枝の切取り(民法233条)

 隣地所有者が隣地に植えられている竹木の枝を切除しないことから、自分の所有地に多くの枝が越境し、土地利用が阻害されている場合があります。改正前であれば、隣地所有者が切除しない場合は、訴訟を提起し切除を命ずる勝訴判決を、切除を必要とする都度得なければなりませんでした。また、隣地が共有地である場合には、共有者の一人が切除しようとしても、その行為は共有地の変更行為に該当し、共有者全員の同意が必要となり、共有者の中に行方不明者がいる場合は、切除ができない状況となっておりました。隣地の竹木の枝による利用妨害のある土地は、鑑定評価にあっては、多少なりとも減価の対象になっていたものと思われます(比準表の個別的要因比較表の環境条件の「隣接不動産等周囲の状態(隣接地の利用状況)」が勘案されるものと思われます)。

 改正民法では、下記の場合には、妨害を受けている土地所有者が自ら枝を切除できることになりました(民法233条3項)。

  1. 竹木の所有者に越境した枝を切除するように催告したにもかかわらず、相当期間内に切除しないとき。
  2. 竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき。
  3. 急迫の事情があるとき。

また、竹木が共有物であるときは、共有者全員の同意を得なくても、各共有者は越境している枝を切除できるようになりました(民法233条2項)。
上記改正により、隣地利用の状況を適正化することができるようになり、鑑定評価上、マイナス要因を多少減ずることになるものと思われます。

参考

法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」[PDF]
(このURLの27頁、28頁)

法務省民事局「マンガで読む法改正・新制度 法務省民事局 不動産・相続に関するルール ここが変わる ! 」[PDF]
(このURLの5頁から14頁)


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