借地権(底地)割合についての最新分析 その1

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は、借地権割合について見ていきたいと思います。

 不動産鑑定評価基準では、借地権付建物の鑑定評価額を算出するにあたっては、「積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定」するものとされています。しかし、令和6年の最新の裁判例を含む借地権割合について判断をしている裁判例を見てみますと更地価額等に借地権割合(底地については底地割合)を乗じて算出する手法も取り入れて、借地権価額(あるいは底地価額)を決定しているものが多いです。400以上の裁判例がありましたが、それらをすべて見てみましたら、借地権(底地)割合について以下のことがわかりました。

 なお、5月のコラムでは、この続きとして、借地権(底地)割合に影響を与える借地権の態様につき、その態様の違いがどのように影響を与えるかを示したいと思います。

裁判官が借地権割合を決定するための判断要素

 ここでは、裁判官が借地権(底地)割合につき、何を判断要素として決定しているかを示します。

  • 相続税路線価を参考あるいは上限として、地元精通者意見(地元精通者は不動産業者であることが多いです)および地域の状況を考慮して判断している裁判例(東京地判令和3年10月14日LEX/DB25602681、東京地判平成28年9月29日LEX/DB25537581ほか)があり、この場合、相続税路線価図に借地権割合が記載されている場合は、慣行的借地権割合が形成されている地域であると判断している場合が多いです。
  • 前面道路路線価の借地権割合を採用する裁判例は意外と多いです(東京地判令和4年8月10日LEX/DB25606701ほか)。
  • 鑑定委員会※1の意見を重視する傾向も見て取れます(東京高決平成10年9月18日LEX/DB28040559ほか)。その結果、路線価図の借地権割合と異なる割合を判断する場合には、路線価に示された借地権割合は単なる地域の基準を示すものであり、課税上のものにすぎないとの理由を示していることが多いです(東京地判平成31年4月25日LEX/DB25559175ほか)。
  • 借地権の設定契約時に、当事者間で借地権割合を合意する場合もあります。その場合、合意された借地権割合を採用する裁判例もあります(大阪高判平成8年8月29日税務訴訟資料220号488頁ほか)。

鑑定委員会

ここにいう鑑定委員会は、地価公示と不動産鑑定士試験を所管する国土交通省の審議会である土地鑑定委員会とは異なります。鑑定委員会は、借地借家法に規定されている委員会で、裁判官は、借地非訟事件(裁判所が賃貸人あるいは賃借人に代わり、通常の訴訟手続きによらず、簡易な手続きで、借地人に対し地代や承認を決定する事件をいいます。)のすべてにつき、特に必要がないと認める場合を除いて、鑑定委員会の意見を聴かなければならないとされています(借地借家法17条6項、同法18条3項、同法19条6項、同法20条2項)。しかし、「本裁判」についてはかならずしも必要ではないと解されています(例:承諾料を条件として借地権の譲渡の許可をする裁判(借地借家法19条6項)の場合、譲渡許可をするのが「本裁判」で、承諾料を決定するのが「付随的裁判」です)。
委員には専門家が3名選任されます。弁護士、不動産鑑定士、一級建築士各1名ずつ選任されるのが通例です。
裁判官は、できるだけ鑑定委員会の意見を尊重すべきとされており、実際には鑑定委員会の意見に沿った判断される場合が多いです(しかし、裁判官は鑑定委員会の意見に拘束されません)。

借地権の態様による違いはあるか

借地権割合に影響を与える借地権の態様

裁判例の分析のもと、借地権割合に影響を与えていると思われる態様には次のものがあります。

  • 地上権か賃借権か
  • 転借か否か
  • 堅固建物所有目的か非堅固建物所有目的か
  • 定期借地権

判断に影響を与えないと思われる態様

  • 契約が書面かであるか口頭であるか

これについては、借地権設定契約が書面であっても口頭であっても、借地借家法の適用を受け、保護されることになりますので、差異はないのだろうと思われます。

判断に影響を与えるかどうか不明な態様

  • 創設されたものか承継されたものか
  • 居住用か営業用か
  • 特約条項(居住用の建物に限定するなど)の有無
  • 借地権設定登記の有無
  • 権利金の過多

 以上の態様は、訴訟当事者がその態様の違いによって借地権(底地)割合が異なる旨の主張が一切なされておりませんでした。訴訟は弁論主義を取っていますので、当事者が主張していないことについては、裁判官は判断できません※2 。ですから、これらの態様の違いが借地権(底地)割合に影響を与えるのかどうかについては不明です。

もちろん釈明権を行使して当事者に主張を促すことはできます(民事訴訟法149条1項)。

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