不動産のバリュエーション(評価)に際しては、「グロス」(gross:総体の)や「ネット」(net:正味の)という言葉がよく使われます。両者は、どちらが望ましいというものでもないのですが、前提条件を間違えて議論をしていると思わぬ誤解を招くことになります。今回は、両者の概念が併存する収益査定項目について考えてみました。
利回り
利回りには、賃料収入そのものに対応する粗利回り(表面利回り)と、賃料収入から運営コストを控除した純収益に対応する利回り(いわゆるキャップレート)があります。前者が「グロス」、後者は「ネット」ということになりますが、一般に不動産業者は「グロス」、不動産鑑定会社や金融機関は「ネット」を使って不動産の収益価格を査定します。
同業者間では、議論に際していちいち前提条件を確認することはほとんどありません。しかし、最近はアパートローン等で個人の方が利回りに触れる機会も増えています。誤解を招くおそれがあると認められる時は、両者の違いをきちんと説明したほうがよいでしょう。大事なのは、どちらの利回りを使っても数値の設定が正しければ結論は同じになるという点です(収益価格=賃料収入÷グロス利回り=純収益÷ネット利回り)。
もちろん、Aクラスビルの収益価格をグロス利回りで求めるわけにはいきませんが、運営コストが定量的に把握しやすいアパートやマンション(一室)の場合はグロス利回りのほうがポピュラーな印象があります。
賃貸面積
次は、賃貸面積です。オフィスビルには、執務スペースである専有部分とは別に、廊下、EVホール、給湯室、トイレ等の共用部分があります。賃料が取れるのは基本的には専有部分なので、通常は賃料単価に専有部分の面積を乗じた金額が月額賃料ということになります(専有面積=ネット面積)。
一方、特定のテナントが特定の階を借り切る「フロア貸し」のケースでは、賃貸面積には共用部分の面積が含まれています。これは、その階の共用部分は特定のテナントが独占的・排他的に使うことになるので、事実上「共用」部分ではないと考えることができるからです。なお、この共用部分を含めた賃貸形式を「グロス貸し」という人もいます。
また、特定の階に複数のテナントが入居している場合でも、中小ビルの場合は共用部分の面積が専有面積比で按分され、賃貸面積として加算されていることがあります。あるいは、建物全体を特定のテナントが借り切る「一棟貸し」の場合は、通常の共用部分以外に地下駐車場や機械室等の面積も賃貸面積に含まれることになります。
賃料単価の査定や検証に当たっては、こうした賃貸形式の違いに十分注意する必要があります。
建築基準法
最後に、建築基準法上の面積についてもおさらいをしておきましょう。建築基準法上の面積はまず、容積対象床面積と容積不算入部分に分かれますが、それぞれに専有部分と共用部分があります。
比較的わかりにくいのは容積不算入部分ですが、専有部分としては住宅地下室(延床面積の3分の1まで)、共用部分としては屋内駐車場(延床面積の5分の1まで)や共同住宅の共用廊下等があります。
容積対象床面積と容積不算入部分の合計が法定床面積で、通常はこの数量が登記数量となります。さらに、法定床面積に外階段やバルコニー等の面積を加算したものが施工床面積ですが、鑑定評価上の延床面積(グロス面積)はあくまでも法定床面積であり、鑑定評価で施工床面積を使うことはありません。
鑑定統括部 藤代 純人(不動産鑑定士)
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