近年、アメリカ、シンガポール、香港、中国等の海外資本が国内不動産市場に及ぼす影響は非常に大きなものとなっています。チャイナマネーが本国に回帰した昨年はともかく、一昨年のピーク時には国内取引額の3 割強を外資が占めています。今年も、欧米の金融緩和策で海外のリート価格が上昇し、これに連動する形で東証リート指数が上昇するケースが目立ちました。
一方、最近は国内資本が海外不動産を取得する機会も増えているように感じます。アジアの新興国等で日本企業の進出が本格化すると、まずは国内の金融機関がこれに続き、次いで監査法人等も現地に支店を出すようになります。我々の鑑定業界でも、最近は国内の鑑定士資格を取得した後、欧米のライセンス(MRICS、MAI 等)を目指す人が増えています。国境を越えても不動産の評価手法は変わりませんが、土地の権利形態や登記制度等は国によってまちまちなので注意が必要です。
今回は、広く海外不動産をテーマとして、例えば自分が投資してみたい国(アセット)、投資する際の注意点等について、当社と業務提携関係にある全国の不動産鑑定士にアンケート調査を行いました。なお、文中のカッコ書き(都道府県名)は、アンケート回答者の事務所の所在地を示すものです。
※ 本コラムは「ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.52」に寄稿したものを転記したものです。
ごもっとも
東南アジアでは、フィリピンの不動産価格の安さが際立っています。フィリンピンでは、高級タイプのコンドミニアム(マンション)が東京の4 分の1 くらいの値段で購入できます。フィリピンは、人口と世帯数が共に増加傾向にあり、将来的にも安定した住宅需要が見込まれています。首都マニラの空室率は約10%、利回りは約7%(Net)とアジア圏では最高水準となっています。ただし、フィリピンでは賃貸物件を一元的に管理してくれる会社が少ない点はネックです(宮城県)。
私は、ハワイのコンドミニアムに魅力を感じます。何といっても価格が安定していますし、日本からの投資を受け入れる環境も整っています。当面は賃貸で回しておいて、定年後はハワイで余生を送るのもよいでしょう。知人の話では、現地の業者が日本人または日系人というだけで日本からの投資希望者が殺到するそうですが、中には悪質な業者もいるようなので注意は必要です(福島県)。
親日国のベトナムは、東南アジアの玄関口としての地理的な優位性を有し、近年は安定した経済成長が続いています。2015 年には外国人による国内不動産の取得が解禁され、これを機に海外からの投資マネーも流入するようになりました。最近では、日本の商社等がプラントビジネスで進出しており、街づくりを通じて両国の関係がさらに親密になることが期待されています(富山県)。
日本からは少し遠いですが、インドは国土が広く、人口規模も大きく、まだまだ成長余力が感じられる国です。優秀な人材が多いのも特徴で、日本国内でも米系IT 企業等で働くインド人技術者が増えています。インドは民主主義国家であり、反日的な動きもほとんどありませんが、農村部等では治安が不安定な点や、周辺国との関係次第ではテロの可能性を否定できない点は気掛かりです(三重県)。
マレーシアは、アジアの交通要衝であるシンガポールに隣接し、豊富な天然資源にも恵まれています。ある調査結果によれば、同国は日本人が住みたい国の第1 位であり、近年の住宅価格指数は右肩上がりとなっています。それでも、シンガポールや香港に比べればまだ割安感はあるのですが、公用語はマレー語なので上流階級でないと英語が通じない点は不便です(兵庫県)。
これから海外に投資するなら、アメリカ以外には考えられません。トランプ政権の「アメリカファースト」政策の下、中国との貿易戦争には必ず勝利し、輸出産業の活性化とともに米国経済はさらに上向くことでしょう。アメリカは、日本と違って人口も増えているので、住宅が過剰供給となるリスクもほとんどありません。リターンは小さくても、アメリカへの投資は長期安定的な収入源となるはずです(熊本県)。
あるある
私は、こんな時だからこそ、韓国に投資すべきだと思います。昨年末のレーダー照射事件以来、政治・経済・文化(交流)のすべてが最悪の状態にありますが、これまでの関係を急に断ち切ることなどできないと思います。「今は投資を控えるべき」との声が聞こえてきそうですが、韓国の不動産ファンドは反日・不買運動の真っ只中に都内のオフィスビルを1 4 0 億円で購入しています(茨城県)。
ジャカルタでは、日本政府の開発援助(ODA)による同国初の地下鉄が開業しています。IT の分野では中国や韓国に遅れをとる日本ですが、鉄道システムに関しては依然として技術的な優位性が高く、今後も新幹線等の海外展開が期待されています。私は鉄道マニアなので、ファンドでも株式でも、海外での鉄道事業に投資する機会が訪れることを楽しみにしています(千葉県)。
ウズベキスタン共和国は、西アジアに位置する旧ソビエト連邦共和国からの独立国です。同国は、長らく鎖国政策を続けていましたが、2016 年に開放政策に転じ、それ以降はロシア等の周辺国からのビジネス進出が相次いでいます。首都タシケントは、人口200 万人都市にしては地価が安く、インカム利回りが高い上、キャピタルゲインも期待できる状況となっています(神奈川県)。
中国国内の住宅開発は既に飽和状態で、華僑と組んだ中国資本が周辺国に流れ込みました。この影響で、タイ、ベトナム、カンボジア等では不動産価格が高騰しましたが、既にピークは過ぎています。北欧諸国もマイナス金利でバブっているようですが、長続きするでしょうか? 今からこうした国々に投資するくらいなら、ニセコや宮古島で短期のさや抜きを図ったほうが旨味は大きいと思います(千葉県)。
北京やソウルでは、大気汚染の問題が一層深刻なものとなっています。日本でも、数年前からPM2.5等が飛来するようになりました。地球温暖化をはじめ、環境問題への関心が世界的に高まっている今、環境対策に必要な資金は巨大なファンドを組成して世界中から集めるべきです。特定の国の政策に任せていたら、地球全体が取り返しのつかないことになります(京都府)。
IT 技術の進歩により、地球上から秘境や未開の地といったものがなくなりつつあります。交通インフラの整備も相まって、今は秘境とされるエリアにもいずれは世界中から観光客が訪れることになるでしょう。ブラジルのアマゾンでは、乱開発が原因で大規模な森林火災が発生しましたが、復興策の一環として焼け跡にはジャングルパーク等を建設し、その収入を森林の再生や生態の保護に充てればよいと思います(香川県)。
なるほど
私のような個人投資家にとって、海外への投資はまだまだ壁が高いと感じます。日本では馴染みがありませんが、アメリカ、シンガポール、オーストラリア、香港等では既に自国のリートが海外の不動産を購入するようになっています。日本のリートでも準備は進められているようですが、やはり、まずはリートが海外不動産を積極的に購入することが海外不動産投資拡大への第一歩だと思います(東京都)。
国内でも、タワーマンションの高層階が節税目的で購入された時期がありましたが、最近はテキサス等の賃貸用戸建住宅が節税目的で購入されています。テキサス等では、建物の償却期間が日本よりも短いため、特に中古住宅の場合は多額の償却費を損金算入することができます。ただし、現地の銀行は日本に住んでいる日本人にはお金を貸してくれません(東京都)。
グローバル社会といっても、中国のように政府の規制が厳しい国や、ブラジルのように海外からのマネーに対しては高い税金をかけている国もあります。ブレグジットや貿易戦争等で世界経済の足並みが揃わない今の状況下では、海外への投資は控えたほうが賢明でしょう。特に、チャイナマネーでバブっている国は、いずれは訪れるであろうチャイナショックの影響をまともに受けることになります(愛知県)。
どこの国でも、外国人である日本人が優良物件を見つけるのは簡単なことではありません。国内でさえ難しい不動産投資を海外で成功させるためには、国や地域の動向に関する情報を収集し、分析する投資環境が不可欠です。結局のところ、どの国に投資するにせよ、信頼できるエージェントを確保することが海外投資で成功するための秘訣なのだと思います(大阪府)。
日本では人口が減っていますが、アジア全体で考えれば人口は増えています。そして、日本の気候はアジアの中でも特に農業に適しており、その農作物は海外でも高い評価を受けています。「日本はアジアの食糧庫」ともいわれますが、物流ファンド等には海外投資の一環として、日本の農産物を近隣諸国に届けるための広域物流網を整備拡充してほしいと思います(広島県)。
外資系を中心にコラボオフィス(コワーキングスペース)の市場が拡大しています。ワークスペースが世界中に広がったことで、最近は大企業による利用が目立ちますが、本来の趣旨であるスタートアップ企業やフリーランスがいなくなったわけではありません。私も、お金と時間に余裕があれば、コラボ会員になって世界中の都市を回り、そこで知り合った将来の億万長者に投資してみたいです(宮崎県)。
まとめ
当社は、昔からアメリカやアジアの鑑定業者とも業務上の協力関係にありますが、最近は社内の鑑定士が海外に出張する機会が増えています。鑑定評価の依頼目的としては、国内企業や日本人投資家が海外で不動産を売買する際の価格水準の検証が中心ですが、他にも国内企業が海外工場の減損処理を行う場合や、国内企業が海外企業をM&A するような場合にも海外不動産の鑑定評価が必要になります。当社では、この数年、海外不動産の評価件数は明らかに伸びています。もしかしたら、海外資本の流入によって高騰した国内市場での高値買いを嫌った国内資本が海外に流れ始めているのかもしれません。
人口減少社会の日本では、外国人労働者の受入れは進められていても、将来的には企業の生産拠点が再び海外に移転する可能性があると思います。およそ10 年前の海外移転では、生産技術上の問題から国内に回帰するケースが目立ちましたが、当時と比べれば国ごとの技術格差は明らかに縮小しています。また、法務や税務の分野でも、海外への対応力は高まっています。こうした状況下において、海外移転が再び加速すれば、今度はそれが定着し、デベロッパーやエージェントの増加に伴って海外での不動産投資が本格化する可能性もあるのです。インターネットが世界中を繋ぎ、キャッシュレス化がさらに進めば、今はアパート等に投資をしているサラリーマン層がネット上で簡単に海外不動産を売買するような時代がやって来るのかもしれません。
神山 大典(不動産鑑定士)
藤代 純人(不動産鑑定士)
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