さまざまな借地問題 その1

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。これまで借地権に関するテーマをいくつか取り上げてきましたが、それらのテーマ以外で、不動産鑑定士が借地権の絡む鑑定評価をするにあたり、問題に思うことの多い論点について、数回にわたって、見ていきたいと思います。

借地上の建物(大規模店舗)の駐車場に借地権の効力は及ぶか?

 これについては判例検索データベース(LEX/DB)を使って参考になる裁判例等を検察したのですが、そのような裁判例を見つけることはできませんでした。

 そこで、ここでは一般的にどのように考えるのが良いかということを示していければと思っております。まずは、建物所有目的であることが必要です。

 建物所有目的とは、借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を築造し、これを所有することにある場合を指し、借地人がその地上に建物を築造し、所有しようとする場合であっても、それが借地使用の主たる目的でなく、その従たる目的にすぎないときは該当しないということになります。ちなみにゴルフ練習場は建物所有目的ではないと判断されております(最高裁判所第三小法廷判決 昭和42年12月5日最高裁判所民事判例集21巻10号2545頁等)。

 よって、借地上に建物を所有していても、それが借地の主たる目的でない場合には、借地権に該当しないということになります。何が主たる目的であるかは最終的には契約解釈の問題になってくるかと思います。

 大規模店舗の駐車場部分についてですが、借地権設定当事者(地主と借地権者)間でその駐車場部分にも借地権の効力が及ぶとの合意がある場合(ここでは契約書に記載(明示)はないものの、当事者の意思の合致がある場合も含みます。これを黙示の合意といいます)には、その駐車場に借地権の効力が及ぶことになるのではないでしょうか(借地借家法の保護を受ける)。

 もちろん、その駐車場部分における借地権を、新しい地主に対抗(主張)できるかについては、争いが生じることになるかもしれません。

2筆の土地の1筆にのみ借地人所有建物があり、建物登記で対抗力を得ている場合は?

原則としては、登記建物が存する土地についてのみ対抗力がある

 複数の筆の土地が賃借され、一体となって利用されていて、そのうちの1筆にのみ登記建物があって対抗力を得ている(借地借家法10条1項)ことも意外とあるのではないかと思います。

 東京高判平成21年5月14日判例タイムズ1305号161頁の事案ですが、これは、賃借している土地が2筆(200㎡と800㎡)あり、200㎡の土地に建物があって(800㎡の土地は駐車場)、建物登記によって対抗力を得ているといった事案です。この場合、新地主に対抗できるのは、200㎡の土地のみということになる可能性があります。この法廷での裁判官は、傍論(判決文の中の判決理由において示された裁判官の意見のうち、判決の主文の直接の理由であって判例法としての法的拘束力が認められる判決理由の核心部分に含まれない部分)で、借地権の対抗力は建物の存する地番の土地に限られると判断しています。

 また、最高裁判所第三小法廷昭和40年6月29日判決 最高裁判所民事判例集19巻4号1027頁も、「甲所有の土地(甲土地)を無償で借り受け、同土地上に居宅を所有する者が乙の所有の隣接土地(乙土地)を右居宅の庭として使用するため、賃借したにすぎず、しかも、甲土地の使用権は乙土地の賃借権の存否にかかわらず存続すべきものである等判示の事情のもとにおいては、たとい当該賃借人が甲乙両土地を一括して右居宅利用の便益に供しており、かつ、右居宅について登記を了していても、乙土地の賃借権は『建物保護ニ関スル法律』第1条所定の対抗力を有しない」と判示しています。この判例の事案は甲土地についての使用貸借事案で、しかも甲土地と乙土地は別の地主ではありますが、学説も実務でも、甲土地の使用が賃貸借であって登記建物が甲土地のみにあっても、その対抗力を乙土地にまで及ぼすことはできないとの一般的判断がなされたものであると理解されています。

例外として、一体的利用の程度が高い場合には、登記建物のない土地についても対抗力が及ぶ可能性あり

 ただし、駐車場土地の利用が、建物所有のために必要とする程度が強い場合は、その駐車場土地にも借地権の対抗力が及ぶ可能性があります。

 最高裁判所第三小法廷平成9年7月1日判決 最高裁判所民事判例集51巻6号2251頁は、「AB2筆の土地の借地権者甲が、ガソリンスタンドの営業のために、A地上に登記されている建物を所有して店舗等として利用し、隣接するB地には未登記の簡易なポンプ室や給油設備等を設置し、右両地を一体として利用していて、B地を利用することができなくなると右営業の継続が事実上不可能となり、甲が右ポンプ室を独立の建物としての価値を有するものとは認めず登記手続を執らなかったこともやむを得ないと見られ、他方、右両地の買主乙には将来の土地の利用につき格別に特定された目的は存在せず、乙が売主の説明から直ちに甲は使用借主であると信じたことについては落ち度があるなど判示の事情の下においては、乙が右両地を特に低廉な価格で買い受けたものではなかったとしても、乙のB地についての明渡請求は、権利の濫用に当たり許されない」と判示しております。

 要するに、2筆の土地が一体として利用されている等の事情があるときは、土地所有者からの、建物のない土地上の工作物等の撤去請求は権利濫用で許されないということです。対抗力が建物のない土地にまで及ぶとは言っていないものの、新地主の撤去請求は無効だから、応ずる必要はないとの判断ですので、結果的に建物のない土地にまで対抗力が及んでいるのと同じ状況が判断されたということが言えます。


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