不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は4月のコラムの続きです。ですから、PART2ということになります。
目次
広大な1筆で、一部に大規模店舗があり、他は駐車場である場合、借地権の効力はどこまで及ぶか? 対抗力はどこまで及ぶか?
この論点については最高裁の判決はありません。そこで地裁の裁判例を見てみます。
裁判例1:甲府地方裁判所鰍沢支部判決 昭和30年9月15日 下級裁判所民事判例集6巻9号2020頁
牛乳搾取の目的で賃借した土地の一部に住宅を建てた事案で、住宅の敷地部分については、借地人は借地権を主張できるが、それ以外の部分については借地権は及ばない、とされています。
裁判例2:千葉地方裁判所木更津支部判決 令和5年2月16日 LEX/DB25594687
これは、鴨川フィシャリーナ(クラブハウス、駐車場、修理ヤード、ボート係留場など)の事案です。傍論ではありますが、「建物所有を目的としない部分がある可能性は否定できないものの、少なくとも本件建物の敷地とみられる部分は建物所有を目的としているといえる」とされています。
以上、2つの裁判例しか見つけることができませんでした。裁判例1は当初の地主に対する事案です。その地主に対して借地権の主張できる範囲を示しています。借地人と地主は当事者の関係であり、対抗関係ではありません。よって、ここで判断された借地権の及ぶ範囲は「借地権の効力の及ぶ範囲」であって「借地権の対抗力の及ぶ範囲」ではありません。しかし、一般的には、「住宅の敷地部分」については、第三者に対しても主張できる、つまり、借地権の対抗力の及ぶ範囲と捉えても良いものと思います。
裁判例2は、底地を買い受けた新地主、つまり第三者に対する事案です。その第三者に対して借地権を主張できる範囲を示しています。ここでも「本件建物の敷地とみられる部分は建物所有を目的としているといえる」と判断していますので、やはり、「建物の敷地」部分は借地権の対抗力の及ぶ範囲だと捉えても良いのだと思います。
しかし、論点の大規模店舗について考えますと、問題は、建物の敷地とは何を意味しているかです。建築基準法で言えば、敷地とは、建蔽率・容積率の制限を示す割合(%)を乗ずる分母となる土地部分を言います。そして、建物所有目的を達するために欠かせない部分である必要があります。そう考えますと、論点の大規模店舗については、まず、建築面積を指定建蔽率で割り戻した土地面積部分と、店舗として機能するために必要な駐車場部分も含むということになるのではないでしょうか。ですから、広大な駐車場の全部ではなく、必要な部分(例えば1週間の平均駐車台数に匹敵する駐車場部分)に限定して対抗力が認められると考えるということになるのではと思います。
地主が借地権を買い取る場合、支払われていた権利金はどのように処理されるか?
この論点については、ぴったりとした裁判例はありませんでしたが、1つだけ以下の参考となる裁判例がありました。
横浜地方裁判所川崎支部決定 昭和51年3月31日 LEX/DB27480940
借地人は権利金(30万円)を支払っているも、地主が買い取る借地権価格(裁判官が決定した建物付き借地権価格:440万円、鑑定委員会 借地権割合65%⇒431万5,246円+建物価格101万200円-名義書換料43万1,524円=489万3,922円)の判断において、権利金は一切考慮されていませんでした。
<一般的な考え方>
この論点については、一般的に以下の考え方があるものと思われます。権利金額は、借地権価額あるいは借地権価額の一部を占める。そして、権利金額が高い場合は地代が低く設定され、権利金額が低い場合は地代が高く設定される。
<法人税法上の考え方>
昭和49年1月25日 国税不服審判所裁決 LEX/DB26005800:相当地代よりも低い地代を支払っていた土地の借地権価格につき、
当時(昭和49年当時)の法人税基本通達13-1-3の算式
〔土地の更地価額-(土地の更地価額-通常収受すべき権利金等)〕×年間地代÷(底地価額×8%)
この算式は、通常収受すべき権利金等額相当額が借地権価額相当額であり、その場合、底地価額の8%が適正地代であり、それを下回る年間地代だと、借地権価額はその割合分減価する、というものです。
現在の法人税基本通達13-1-3
借地権評価額=土地の更地価格×(1-実際地代の年額/相当地代の年額)
*相当地代の年額=更地価額×6%
なお、「通常収受すべき権利金の額=土地の更地価額×借地権割合」を超える場合は、通常収受すべき額が上限となります。
この算式は、実際地代が相当地代よりも低い場合にその差額割合分を更地価格に乗じたものが借地権評価額であるというものですが、権利金の授受がある場合、権利金額を借地権価額として計上することとなります。
<私見>
以上からしますと、権利金の授受があっても、権利金の金額は借地権相当額だとして考えるため、実務においては、権利金について特段の処理はしないのではないか、と思われます。
- 共有物の利用の円滑化に関する民法改正について(令和5年改正民法その1)
- 相隣関係に関する民法改正について(令和5年改正民法その2)
- 抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲について
- 法定地上権と配当について
- 未登記建物に対する対応
- 場所的利益について
- 借地権(底地)割合についての最新分析 その1
- 借地権(底地)割合についての最新分析 その2
- サブリースとサブサブリース その1
- サブリースとサブサブリース その2
- サブリースとサブサブリース その3
- 事業性融資の推進等に関する法律
- 借地借家法の保護を受ける土地賃借権(借地権)と借り得について その1
- 借地借家法の保護を受ける土地賃借権(借地権)と借り得について その2
- 借地借家法の保護を受ける土地賃借権(借地権)と借り得について その3
- 借地借家法の保護を受ける土地賃借権(借地権)と借り得について その4
- マンションの取り壊しにおける買取価格について
- 通行地役権について その1
- さまざまな借地問題 その1
- さまざまな借地問題 その2 <- 本記事
- さまざまな借地問題 その3
- さまざまな借地問題 その4・完
- 通行地役権について その2