さまざまな借地問題 その3

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は4月・5月のコラムの続きで、PART3ということになります。

都心1等地(銀座、新宿など)の借地権譲渡における借地権割合は何割か?

 この論点については、地裁の裁判例を見てみます。

 路線価図における借地権割合よりも低い借地権割合の事案:東京地判令和3年11月24日LEX/DB25602174(東京都中央区)

 本件土地の継続地代は、差額配分法によれば,月額279万200円としています。これは、期待利回りを3%とし、αエリアの高度商業地区の借地権割合は90%であるものの、本件建物が古いこと等から地主に帰属する経済的利益の割合を0.3として、平成30年度の公租公課額1,157万8,237円を加算すると、経済地代は月額348万400円であり、これと210万円との差額を当事者間で各2分の1配分するとしたものです。つまり、借地権割合は70%ということになります。

 そして、裁判官はこの鑑定評価を認容しています。

  • 路線価図における借地権割合をそのまま認容している裁判例:以下のものがあります。
  • 東京地判平成31年4月25日LEX/DB25581195:新宿区(80%)
  • 東京地判平成28年6月9日LEX/DB25535495:港区(80%)
  • 東京地決平成18年9月7日LEX/DB28140338:目黒区(80%)
  • 東京地決平成18年6月9日+LEX/DB28140336:中央区(80%)
  • 東京地決平成12年7月28日LEX/DB28062059:中央区築地(80%)
  • 東京地決平成2年1月12日LEX/DB27810485:新宿区新宿7丁目(80%)
  • 東京地決昭和61年11月28日LEX/DB27800669:豊島区池袋2丁目7-1(80%)他

土地使用貸借権 評価割合2割の根拠は何か?

1.土地使用貸借権の特徴

 まずは、民法の条文を見てみましょう。
 使用貸借に関する民法の規定:民法593条から600条

  • 民法594条1項:借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
  • 同条3項:借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
  • 民法597条1項:当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
  • 597条2項:当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
  • 同条3項:使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
  • 民法598条1項:貸主は、前条第二項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。
  • 同条2項:当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。

 以上の民法の規定からしますと、土地使用貸借権は、譲渡性がなく、民法所定の消滅事由により比較的容易に消滅し得る脆弱なものということがいえます。

 一方、土地の使用貸借においては、使用借人は、土地を無償で借り入れ、土地に建物を建築し賃料収入による利益を全面的に得られるものであって、土地に対する資本負担なく、土地を収益することができるのであり、収益面では土地の所有者と同等あるいはそれ以上の権能を有しています(以上、東京地判平成31年4月26日LEX/DB25559631)。

2.裁判例

 裁判例を見てみましょう。
東京地判平成30年11月14日LEX/DB25558426(遺留分減殺等請求事件)
 裁判所鑑定(草加市の土地)は、土地価格の2割と認めるのが相当であるとしています。

東京地判平成15年11月17日判例タイムズ1152号241頁(遺留分減殺請求事件)
 裁判所鑑定人 不動産鑑定士 若林眞先生は以下のとおり鑑定評価をしています。本件土地の使用貸借権の価値として、取引事例比較法に基づく比準価格および収益還元法に基づく収益価格を関連付け、さらに基準地価格を規準として求めた価格(規準価格)との均衡に留意の上、平成5年1月9日時点の本件土地の更地価格を算出し、これに15%を乗じた価格(1,935万円)としています。

浦和地判平成9年5月19日判例タイムズ966号163頁(埼玉県収用委員会採決変更等請求事件)
<川名鑑定>使用貸借権者は土地の利用により相当の経済的利益を受けており、また、使用借権のある土地を所有権者が利用しようとする場合には、時間的、金銭的負担が生じる可能性もあるとして、建物の敷地として利用されている場合は更地価格の10%、それ以外の場合は5%程度を使用借権の負担があるとして減価

<大手町鑑定>使用貸借は譲渡性、永続性が確保されておらず、したがって、取引市場も存在しないが、公共用地取得等の際の補償に関して価格が顕在化する場合があるとして、公共用地取得に伴う損失補償基準に定める使用貸借の割合を参考に、使用貸借割合は、標準借地権割合である60%に1/3を乗じた20%と査定。

3.公共用地の取得に伴う損失補償基準

 公共用地の取得に伴う損失補償基準は、その13条に規定があります。

(使用貸借による権利に対する補償) 第13条
使用貸借による権利に対しては、当該権利が賃借権であるものとして前条の規定に準じて算定した正常な取引価格に、当該権利が設定された事情並びに返還の時期、使用及び収益の目的その他の契約内容、使用及び収益の状況等を考慮して適正に定めた割合を乗じて得た額をもって補償するものとする」

 実務的には、借地権の1/3程度で評価をしているようです。

4.東京地方裁判所競売評価実務における使用貸借権の評価

 東京地方裁判所競売評価実務における使用貸借権の評価では、非堅固建物の場合は10%を標準とし、堅固建物の場合は20%を標準としています(東京地判平成31年4月26日LEX/DB25559631)。

5.税法上の評価

 税法上の評価はどうでしょうか?被相続人がその親族に使用貸借により土地を貸していた場合は、その土地の評価の際に借地権相当額の控除をすることができません。つまり、貸していなかった場合と同じ評価額になります。

 使用貸借で借りていた親族がその土地の上に貸家を建て、第三者に貸していたようなケースでも、貸していなかった場合と同じ評価額になります(以上、税法上の評価)。

6.場所的利益とは異なる

 借地(土地の賃貸借)において、一定の場合に、建物買取請求がなされることがあります。この時には借地権は存在しないのですが、その代わり場所的利益があるものとして買取の金額が計算されます。場所的利益の目安は土地価格の15%程度です。

<私見>
 以上見てきましたが、土地使用貸借権の評価割合2割の根拠につき明確な答えを出すのは難しそうです。感覚的なものになってしまいますが、路線価図における借地権割合の最低が30%であることから、これよりも低い20%としているのではないか、と思われます。


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