新たな担保法制について その1

 不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回から数回にわたり「新たな担保法制」を取り上げます。

 新たな担保法制とは、一つには、令和7年5月30日に公布されました「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(以下、譲渡担保法というものとします)」です(令和七年法律第五十六号)。施行は一定のものを除き、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日からとされています(附則1)。1

 もう一つは、令和6年6月7日に成立しました「事業性融資の推進等に関する法律(以下、事業性融資推進法というものとします)」(令和8年5月26日施行予定)です。

1:譲渡担保はこれまでその法的構成として所有権的構成(譲渡担保権は設定者の有する目的物の所有権を債権者に譲渡する形で設定されます。この外形を重視し、実際の所有権も債権者に移転するとするものが、所有権的構成です)と担保権的構成(所有権的構成に対して、外形上は目的物の所有権が債権者に移転する形ですが、実際には移転しておらず、実行まで設定者が有しているとする構成をいいます)が対立してきましたが、譲渡担保法はどちらかの法的構成を重視して立法されたものではありません。条文によっては所有権的構成では説明できないものや反対に担保権的構成では説明できないものが入り混じっています。
ちなみに、私見は、物権的期待権説(所有権的構成)です。これは、目的物の所有権は債権者に移転しますが、その所有権は完全な効力を発揮するものではなく、譲渡担保設定者の有する設定者留保権によって担保目的に制限されたものになっているというものです。設定者留保権は慣習法上の物権であります目的物の使用収益権です。この設定者留保権を設定者が有することにより、目的物の占有を債権者たる譲渡担保権者に移すことなく、手元に留めおいて使用収益できます。そして、設定者は、債務を完済すると目的物所有権の譲渡担保権者への移転の効力が消滅する解除条件付権利たる物権的期待権を有しており、それに設定者留保権が従属するという法的構成です(拙著『物権的期待権の譲渡担保化‐中小企業の資金融資を中心として』298頁(日本評論社、2021))。

Ⅰ 譲渡担保法

1.特筆すべき項目

 まずは、法律の項目のうち、特筆すべきものを下記に列挙します。

  1. 占有改定劣後ルールの導入(譲渡担保法(以下、法という)36条)
  2. 集合動産の特定を種類と所在場所だけを示すことでできるようにした(法40条)
  3. 帰属清算・処分清算において、目的物の所有権が確定的に譲渡担保権者あるいは第三者に移転するのは、原則として、通知後2週間後(法60条、61条)
  4. 後順位担保権者の譲渡担保権の実行が、それに優先する全担保権者の同意を得れば可能となった(法62条)
  5. 競売申立て、配当要求も可能になった(法72条)
  6. 所有権留保についても譲渡担保の規定が準用される(法111条)

2.各項目について

 それでは、列挙した項目を一つ一つ詳しく見ていきます。

(1)占有改定劣後ルールの導入(譲渡担保法(以下、法という)36条)

(占有改定で対抗要件を備えた動産譲渡担保権の順位の特例)
第36条 第32条(動産譲渡担保権の順位:同一の動産について数個の動産譲渡担保権が互いに競合する場合には、その動産譲渡担保権の順位は、その動産の引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては、登記又は登録)の前後による)及び前条(第35条:動産譲渡担保権と動産質権との競合:同一の動産について動産譲渡担保権と動産質権とが競合する場合には、その順位は、動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡についての引渡しと動産質権の設定の前後による)並びに事業性融資の推進等に関する法律第18条第1項(債務者の財産の上に存する先取特権(民法第325条に規定する先取特権(同条第3号に係るものに限る=不動産売買の先取特権)に限る)、質権又は抵当権(以下この款において「他の担保権」という)と企業価値担保権とが競合する場合には、それらの優先権の順位は、他の担保権に係る登記、登録その他の対抗要件の具備と企業価値担保権に係る登記の前後による)の規定にかかわらず、占有改定で譲渡担保動産の引渡しを受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法で譲渡担保動産の引渡しを受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権若しくは動産質権又は企業価値担保権に劣後する。
2 動産譲渡担保権が占有改定以外の方法で譲渡担保動産の引渡し(特例法第3条第1項の規定により引渡しがあったものとみなされる場合を除く)を受けることにより対抗要件を備えたものであっても、その後に動産譲渡担保権設定者が当該譲渡担保動産を現に所持して占有したときは、前項の規定の適用については、占有改定で引渡しを受けることにより対抗要件を備えたものとみなす。

 以上の法36条1項に規定するとおり、占有改定(民法183条)によって動産の引渡しを受けた場合、それ以外の引渡し(現実の引渡し(民法182条1項)、簡易の引渡し(民法182条2項)、指図による占有移転(民法184条))そして動産譲渡登記に順位で劣後することになります。

 占有改定は従来から動産譲渡担保権の対抗要件として一般に利用されてきました。しかし、占有改定は、引渡しといっても、たとえば売買契約で売主が契約後も実際の占有を継続する形の引渡しですので、売買契約が実際になされ、所有権が買主に移転したのか、外部からは、わからないという欠点がありました。そのために、動産譲渡登記制度ができたわけです。

 上記の欠点を有することから、法制定において、占有改定は劣位に置かれることとなりました。したがって、機械設備甲に1番順位で占有改定により譲渡担保権の設定を受けたA(設定者はDとします)が、その後にBが譲渡登記で譲渡担保権の設定を受けた後、Cが譲渡登記で譲渡担保権の設定を受けると、本来であればAが1番順位であるはずなのに、Bが1番順位、Cが2番順位となり、Aは3番順位になってしまいます。

 しかし、この規定は担保権の設定の場合の規定ですので、占有改定で目的動産の所有権を真正譲渡する場合は、適用されません。つまり、占有改定であっても真正譲渡の場合は、対抗要件の具備の先後で判断されますので、占有改定での真正譲渡が最優先順位ということになります。この場合は、前述の例で、真正譲渡ですでにAの所有物になっている動産を前所有者DがBとCに勝手に譲渡担保に供したことになります。その譲渡担保は他人の所有物の譲渡担保の設定ということになり、DはAから所有権を取得しないかぎり、最終的には、譲渡担保は効力を有しないことになってしまいます 。2

 したがって、新たに譲渡担保権の設定を受けようとする者は、それよりも先に占有改定による引渡しがなされていることが分かったとしても、それが譲渡担保権の設定なのか真正な譲渡なのかを調査する必要があります。

 なお、第2項は、占有改定以外の現実の引渡し等による対抗要件が具備されても、目的物が設定者に返還されてしまった場合には、譲渡担保の設定前も設定後も設定者が占有を継続する占有改定がなされたものといえるので、この場合も占有改定劣後ルールが適用されることになります。

2:もちろん、BやCが目的動産の現実の占有を取得し、即時取得(民法192条)の要件を具備すれば、譲渡担保権の設定は効力を有することになります。その場合、Aは債務者Dのために、自身の所有する動産を譲渡担保に供するといった物上保証人的立場になります。

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