創価大学法学部で専任教員として民法を担当しています不動産鑑定士の松田です。今回は、所有者不明土地等について見ていきます。
担保評価等の不動産鑑定評価を行うにあたり、共有土地であるけれども共有者の一人が行方不明であるといった場合があると思います。その場合、処分が一定程度制限されますので、当然に評価がその分減価されるものと思います。
ご存じの方も多いと思いますが、平成28年度地籍調査において登記簿上の所有者の所在が不明な土地の面積は、約410万haと推計(2016年時点)されており、それは九州本土(367.5万ha)を大きく上回ります。所有者が見つからないと売ることはできず、公共事業や土地の利活用を阻害することになります。
そこで所有者不明・管理不全の土地・建物管理制度等が民法に創設され、また、共有者不明の共有物の利用の円滑化に関する民法改正が行われ、令和5年4月1日より施行されています。今回は共有物の利用の円滑化に関する改正民法について見ていきます。
1.所在等不明共有者のいる共有不動産を第三者に譲渡する場合
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、裁判所は、(所在等不明ではない)共有者の請求により、その共有者に、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の第三者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分をその特定の第三者に譲渡する権限を付与する裁判ができます(民法262条の3第1項)。つまり、所在等不明ではない共有者全員の持分の全部を特定の第三者に譲渡すると、所在等不明共有者の持分もその譲渡時に当該第三者に移転することになります。こうすることにいって、共有者の一人あるいは数人の所在等が不明であっても、不動産の全体を第三者に処分することができます。
ちなみに裁判所に対しては、所在等不明共有者につき、登記簿上共有者の氏名等や所在が不明であるだけではなく、住民票調査など必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明であることを、証明する必要があります。
また、所在等不明共有者の所在等が判明した場合、当該共有者の持分権はすでに第三者に移転されてしまっているものの、譲渡代金を受取れないということではなく、所在等不明共有者は、譲渡権限が付与され、その譲渡権限を行使して、第三者に譲渡した共有者に対して、譲渡した不動産の時価相当額(売却価額ではない)のうち自己の持分に応じた額の支払請求権を取得します(民法262条の3第3項)。実際には、所在等不明共有者の持分に応じた時価相当額分が供託されますので、供託金還付請求権を行使することになります(供託金額が実際の時価に応じた額よりも低額である場合には、別途訴訟を提起するなどして請求することになります。ここでは、不動産鑑定が必要になる可能性があります)。
なお、管轄裁判所は、不動産の所在地の地方裁判所になり、判決を得た後に、第三者と譲渡契約を締結することになります。譲渡契約の締結は、裁判の効力発生時(即時抗告期間の経過などにより裁判が確定した時)から原則2カ月以内にしないといけません(この期間は裁判所が伸長できます)。さらに、時価の算定にあたっては、第三者に売却する際に見込まれる売却額等が考慮されるとありますが、不動産鑑定士が介入することにもなるかもしれません。
ところで、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合は、相続開始の時から10年を経過していなければなりません(民法262条の3第2項)。
2.他の共有者が所在等不明共有者の不動産持分権を取得する場合
共有不動産のすべてを第三者に譲渡するのではなく、他の共有者が所在等不明共有者の不動産持分権を取得することもできます。この場合も、共有者の請求により、その共有者に対して裁判所が所在等不明共有者の持分権を取得させる旨の裁判をすることができます(民法262条の2第1項1文)。
この場合において、請求した共有者が2人以上いる場合、裁判所は、その共有者の持分の割合に基づき按分して取得させることができます(民法262条の2第1項2文)。
この場合において、所在等不明共有者が時価相当額の請求権を有すること(民法262条の2第4項)、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合は、相続開始の時から10年を経過していなければならないこと(民法262条の2第3項)は、「1」と同様です。
参考
法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」[PDF]
(このURLの37頁、38頁)
法務省民事局「マンガで読む法改正・新制度 法務省民事局 不動産・相続に関するルール ここが変わる ! 」[PDF]
(このURLの17頁から18頁)
- 共有物の利用の円滑化に関する民法改正について(令和5年改正民法その1) <- 本記事
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